愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

井上靖

洪水のように 大きく激しく 生きなくてもいい 清水のようにあの岩蔭の 人目につかぬ滴りのように 清らかにひそやかに自ら輝いて 生きてもらいたい

国吉康雄

クニヨシブラウン クニヨシホワイトのユニヴァーサルな価値 何人にも見える

プチポワ・ア・ラ・フランセーズ

本田一弘 『あらがね』より

さんぐわつじふいちにちにあらなくみちのくはサングワ ヅジフイヂ二ヂの儘なり 東北(とうほぐ)は二千五百四十六(にせんごひゃくよんじふろぐ)のゆぐへふめいのいのちをさがす

西原裕美 心待ち

降れば これは新しい場所 小さな粒を初めて見て 一つ一つが 違っていることに気づいたの 重さも軽さも 落ちてく角度も 異なって ずうっと待っていた 足がうずうずするぐらい 空ばかりを眺めて 手放したものと 手に入れたものを思いました。

西原裕美 アラマンダ

初めて 気が付いた 何年もあなたが 痩せた身体と 猫っ毛な髪のまま ここに居たこと ・・・ 誰もいないと思った世界に あなたが居たんだって事実が 歯の奥が緩んで 初めて殺される夢を見なくなるぐらい 言いたくない さようならを言って まだ愛しているし、ま…

吉野弘

花が咲いている すぐ近くまで 虻の姿をした他者が 光をまとって飛んできている 私も あるとき 誰かのための虻だったろう あなたも あるとき 私のための風だったかもしれない

片岡真伊『日本の小説の翻訳にまつわる特異な問題』(中央公論新社、2024年)を読む

ぐいぐいと読まされた。もともと好きな小説ばかりであったというのは、私の場合、大きいかもしれない。 ・優れた総論が置かれていて、これから始まる各論が素晴らしいものであることを予感させる。問題提起が素晴らしいということは、問題の把握が十分なる思…

ゲーテ ひとつの譬喩

このあいだわたしは牧場から花束を摘んできた、 だいじに家にもちかえったが 手のぬくみで 花はみなぐったりと萎れていた。 けれどそれを爽やかな水をたたえたコップに挿すと なんという奇蹟! 花々は頭をもたげ 茎や葉は緑にかがやき どこもかも力みなぎり…

草の餅

岩田奎『膚』(ふらんす堂、2022年)を読む

『膚』は岩田奎の第一句集。「群青」会員。跋佐藤郁良、帯 櫂未知子。十五句抄。 耳打のさうして洗ひ髪と知る 旅いつも雲に抜かれて大花野 をりからの夜空の色の日記買ふ 仕舞ふときスケートの刃に唇映る いづれ来る夜明の色に誘蛾灯 憲法記念日白馬白蛇みな…

上巳

カラテ界のあしたのジョー星飛雄馬を探せ 梶原一騎杯記念 関東選抜大会

野中亮介『つむぎうた』(ふらんす堂、2020年)を読む

『つむぎうた』は野中亮介の第二句集。「花鶏」主宰、「馬醉木」同人。俳人協会評議員。十五句抄。 遙かより帰るところの涼しくて わだつみや月下に壱岐のひと雫 天の川胸にあるとき言葉美し つまさきに力をこめて巣立ちけり 冬帽を握りしめたる正座かな 薫…

尿素結晶化実験

翌朝

続羽鳥湖

羽鳥湖

竹 萩原朔太郎

ますぐなるもの地面に生え、 するどき青きもの地面に生え、 凍れる冬をつらぬきて、 そのみどり葉光る朝の空路に、 なみだたれ、 なみだをたれ、 いまはや懴悔をはれる肩の上より、 けぶれる竹の根はひろごり、 するどき青きもの地面に生え。

雛飾る

年新たいつもの道を海に出て 津川絵里子

恵方巻

はりはりとセロファンは鳴り花束の多く行きかふ街に風吹く 横山未来子 樹下に餌を隠す鴉のゆふやみよ言葉かぶせてひとのゆふやみ 小原奈美 口語「た」に代わる短歌における「ぬ」の重用 高良真美 口語の中に投げ込まれた文語の異物感は、発話の自然さを壊し…

年の豆

ゆき暮れて雨もる宿やいとざくら 与謝蕪村 影は滝空は花なり糸桜 加賀千代女 大雪にうづまつて咲く椿かな 村上鬼城 藪椿しづかに芯のともり居る 吉岡禅寺洞

水仙

木蓮に白磁の如き日あるのみ 竹下しづの女 うつうつと雨のはくれむ弁をとづ 臼田亞浪

冬薔薇

春雪のとまりし肩をたたきあふ 石橋秀野 淡雪や昼を灯して鏡店 日野草城 ゆふぐれのしづかな雨や水草生ふ 同上 水草生ふひとにわかれて江に来れば 同上 たたずみてやがてかがみぬ水草生ふ 木下夕爾

曽根薫風『喜寿』(ふらんす堂、2023年)を読む

『喜寿』は曽根薫風の第一句集。「馬醉木」同人。俳人協会幹事・同岡山県支部顧問。序 德田千鶴子。十五句抄。 定まりて子にひき渡す凧の糸 母匂ふ陶枕かたく冷たくも 若水の上に日の差す岩の上 初電話胎児が腹を蹴るといふ 節分の雪や板書の手を止めて 画用…

聖歌隊胸の高さにひらきたる白き楽譜の百羽のかもめ 杉崎恒夫 たくさんの空の遠さにかこまれし人さし指の秋の灯台 同上 春雷のあとの奈落に寝がへりす 橋本多佳子

三回忌

雪掻の汗そのままに急須とる 岩田奎 くるくると出づる口紅蚊喰鳥 同上 面白い蟷螂生れつづくなり 同上

Bruit de l'eau / su de l'eau Ombre d'une feuille su une autre feuille

ふぐ刺し

耕や鳥さへ啼かぬ山かげに 与謝蕪村