遠雷や神々の国暮れ残る 野木桃花
いきいきと川波流れ初つばめ 松岡隆子
曇る日の花の白さの匂ふかな 同上
惜春の橋を渡るに振り返る 同上
残桜や山湖音なく暮れゆける 同上
小さい虹を見ることから、娘のきれいなひそかなところが目にうかんできて追い払えなかった。それを江口は金沢の川沿いの宿で見た。粉雪の降る夜であった。若い江口はきれいさに息を吞み涙が出るほど打たれたものであった。ひそかなところのきれいさがその娘の心のきれいさと思われるようになって、「そんなばかなことが。」と笑おうとしても、あこがれの流れる真実となって、老年の今なお動かせない思い出だ。
娘ははにかんだけれども素直に江口の目をゆるしたのは、娘のさがであったかもしれないが、娘はそのきれいさを自分では知らなかったにちがいないだろう。娘には見えないのだ。