愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

みどりの日

 


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遠い日の雲呼ぶための夏帽子 大牧広

衣をぬぎし闇のあなたにあやめ咲く 桂信子

竹の葉の落ちゆく先も竹の谷 鷲谷七菜子

布織ってをり垂直に汗落ちて 中山和子

行春の一人旅にて淋しかろ 大竹孤愁

残り葉の人のけはひに散りかかる 同上

一山の挿頭と見ゆる桜かな 上田日差子

濡れ急ぐ万の雫の花万朶 同上

葉桜に働く袖を捲りけり 小川軽舟

隊列をゆるめぬ墓標夏の雨 同上

虹立ちて墓標は点呼待つごとく 同上

本名をいくたびも書きリラの花 櫂未知子

 資生堂なら海色のソーダ水 同上

今日よりは火を手放さむ冷奴 同上

ひとつづつそして全ての袋掛 同上

 

川端康成『眠れる美女』より

小さい虹を見ることから、娘のきれいなひそかなところが目にうかんできて追い払えなかった。それを江口は金沢の川沿いの宿で見た。粉雪の降る夜であった。若い江口はきれいさに息を吞み涙が出るほど打たれたものであった。ひそかなところのきれいさがその娘の心のきれいさと思われるようになって、「そんなばかなことが。」と笑おうとしても、あこがれの流れる真実となって、老年の今なお動かせない思い出だ。

娘ははにかんだけれども素直に江口の目をゆるしたのは、娘のさがであったかもしれないが、娘はそのきれいさを自分では知らなかったにちがいないだろう。娘には見えないのだ。

兜飾る

鮒鮓や夜の底深き湖の国 伊藤伊那男

平凡を願ふくらしや胡瓜漬 三沢久子

冷し瓜回して水の流れ去る 大串章

冷し西瓜縞目ゆたかに浮びをり 浅井よし子

茄子漬や雲ゆたかにて噴火湾加藤楸邨


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砺波

短夜やからからと鳴る車井戸 村上鬼城

水口をあけて水澄む青田かな 以下同じ

提灯に風の吹き入る青田かな

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南風のそよ吹き渡る青田かな

宵闇に五位の鳴き越す青田かな

しののめや青田をわたる南風

白百合のしらしら咲いてそり返る

百合さいて草間の道の夜明かな

街道やはてなくくもる桐の花

桐の花紫さめてちりいそぐ

夏木立音もさやかに水こだま、

石切のこだま返しや夏木立

炎天や緑青吹いて石割るる

縁側の月にちらばるうちはかな

春暁や消え残りたる渡船の灯

春暁や海の上這ふ水煙
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