愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

 『青き方舟』山田牧(2022年.ふらんす堂)を読む

『青き方舟』は山田牧の第二句集。 跋 角谷昌子 「磁石」同人、俳人協会会員。15句抄。

水槽は夜空に似たり海月浮く

りんご飴丸々光る夜店かな

盆踊半円闇に包まるる

転ぶ人見て転びたりスケート場

鼻歌のさび繰り返す菜飯かな

春雨やするりと分けて黄身白身

降りだしの雨筋ほそし草の花

一点に一人時雨の美術館

花冷の出汁の匂ひの暖簾かな

図書館に探す横顔夏の雨

家中の音無き真昼白木槿

花野ゆく時折風に譲りつつ

明け方の夢の輪郭額の花

兄弟の頬に畳目昼寝覚

本著は著書より寄贈を受けました。記して感謝致します。

 

 『泉番』白石正人(2022年)を読む

『泉番』は白石正人の第二句集。 跋 福島泰樹 「椋」、現代俳句協会会員。

15句抄

 

 

 

その言葉澱となりたる半夏生 

何ごとも無かつたやうな猟夫かな

鳥影の地表を走る復活祭 

肩で息する引率の夏帽子

鍋肌にまはす醤油や雲の峰

夏つばめ駅は運河を跨ぐなり

水澄むや流れは瘤をつくりつつ 

店員に軽口叩くアロハシャツ

冥土へと一段倒す籐寝椅子

三方へ運河分かるる枯桜

囀りや片手で受くるコイントス

昼の虫ひとに重なる人の影

判決の主文短し石榴割る

侘助や言葉に酔へば失へる

水仙花日の差すところまで歩く

 

 

本著は著書より寄贈を受けました。記して感謝致します。