愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

寒波来る


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鷹とめて瑞山の春夕映えす 飯田蛇笏

春さだかわが前に波崩れたり 大野林火

竹の穂の春立つ光ふりこぼす 水原秋櫻子

早春の門すこしぬれ朝のあめ 及川貞

早春の心光りつ多摩に沿ふ 中島斌雄

梅二月ひかりは風とともにあり 西島麦南

山がひの杉冴え返る谺かな 芥川龍之介

春寒と言葉交せば人親し 星野立子

春寒の日ざしに波はあひ打てり 清崎敏郎

空も星もさみどり月夜星めきぬ 渡辺水巴

春めくや真夜ふりいでし雨ながら 軽部烏頭子

東風の船汽笛真白く吹きやめず 山口誓子

東風の波舳走りて艫沈み 中村汀女

夕東風のともしゆく灯のひとつづつ 木下夕爾

双子山の裏も表も春の雪 長谷川かな女

抱きたく若き幹立つ牡丹雪 加藤楸邨

伊吹岳残雪天に離れ去る 山口誓子

夕焼の峯雪崩れむとして止みぬ 殿村菟絲子

遠き雪崩背山の雪崩夜も鳴れり 同上

大鷹のつづきながるる雪解風 水原秋櫻子

ときをりの水のささやき猫柳 中村汀女

寒明くる水に落ちたる鳥の羽 菅野孝夫

寒晴や鯉につきゆく鯉の影 亀井雉子男

初仕事貧しき人を葬りけり 福島せいぎ

小声には小声で応へお花畑 和田桃

昼からは日の照る畑大根引く 同上

風鐸や月近ければ月に鳴る 同上

海開きしてより海の子となりぬ 同上

薫風の止む一瞬の的射貫く 同上

人血に膨らむ山蛭の悶え 同上

産卵の背びれは風に振る素秋沼尾将之

うち揃ふ出雲高稲架夫が国 尾野恵美

山間の一音高き威銃 勝山栄泉

箸割れば柾目の香あり豊の秋 宮前良子

竹筒の七味ふた振りささめ雪 工藤義夫

暖流の靄逆巻けり鰤起し 同上

白魚の夜を灯して四手網 小杉伸一路