愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

俳句

木幡神社

松尾芭蕉 『笈の小文』より

見る所花にあらずといふことなし、思ふ所月にあらずといふことなし

尾崎紅葉 『秋の声発刊之文』

俳諧久しく衰へたりと雖、人間は恋無常の古の哀を尽し、地は山水生植の姿を今に改めず、天象は二句より万世に続きて、月は定座を長へに、春は長閑に霞み、秋は寂しう雨降る夕、斯道の好(き)人ども聴雨の燈下に会して、乱吟の仮初に戯れしも、彼は風調のを…

芭蕉雑談 正岡子規

一人にして二百の多きに及ぶ者古来稀なるところにして、芭蕉叉一大文学者たるを失はず。 芭蕉の文学は古を模倣せしにあらずして自ら発明せしなり。貞門、檀林の俳諧を改良せりと謂はんよりは寧ろ蕉風を創開せりと謂ふの妥当なるを覚ゆるなり。而して其の自流…

昼の虫

月光は空いつぱいの仏かな落合水尾 噴水のいただきに水弾ねてをり 同上 ちやんちやんこ着て空船をあやつれる 同上

立待月

肘張りて新酒をかばふかに飲むよ 中村草田男 青林檎真っ白に剥き青を捨つ 上窪青樹 雲の峰黒板消しの匂いかな 同上 虫籠に溜まるか月の光なら 大島雄作 死ぬ人は吾を忘るる鰯雲 同上

 『青き方舟』山田牧(2022年.ふらんす堂)を読む

『青き方舟』は山田牧の第二句集。 跋 角谷昌子 「磁石」同人、俳人協会会員。15句抄。 水槽は夜空に似たり海月浮く りんご飴丸々光る夜店かな 盆踊半円闇に包まるる 転ぶ人見て転びたりスケート場 鼻歌のさび繰り返す菜飯かな 春雨やするりと分けて黄身白…

 『泉番』白石正人(2022年)を読む

『泉番』は白石正人の第二句集。 跋 福島泰樹 「椋」、現代俳句協会会員。 15句抄 その言葉澱となりたる半夏生 何ごとも無かつたやうな猟夫かな 鳥影の地表を走る復活祭 肩で息する引率の夏帽子 鍋肌にまはす醤油や雲の峰 夏つばめ駅は運河を跨ぐなり 水澄…

弓張月

青蘆の風分け行けり調教馬 小森泰子 大漁旗先頭に立て盆踊 植田桂子 息づかひ拾ふマイクや盆踊 同上 手花火に父似の顔の浮かびけり 兼久ちわき 岩礁に砕くる波や夜光虫 斉木永久 白樺の影被て涼し野外弥撒 渡会昌広 青萩の躙り口まだ濡れてをり 大上充子 あ…

青松輝 丸田洋渡試論 を読んで 雑感

別のところでみる夢-丸田洋渡試論 - アオマツブログ (hatenablog.com) 面白い試論だった。俳句における新人賞の扱いはどうなのか? 生活感が顕わな作品は飽和状態で,受賞を逃す傾向にあるとまでは言い過ぎか。 夢的なものは,わからない,理解を拒絶している…

上弦

重陽の夕焼を見るいくたりか 阿部みどり女

浅蜊 ががんぼ 紫 白

むらさきが支へて春の虹立てり 細谷喨々 うすものの重り合ひて濃むらさき 山口青邨 紫は水に映らず花菖蒲 高濱年尾 地平線に一番近いラベンダー 前田弘 磨崖仏おほむらさきを放ちけり 黒田杏子 初なすび水の中より跳ね上がる 長谷川櫂 山晴れが紫苑きるにも…

わが言へば妻が言ひ消す鉦叩加藤楸邨 書いてゆくひとつのことに鉦叩 中村汀女 いねがての潮騒のなか鉦叩 佐野まもる きりぎりす潮よりしづかなるはなし 山口誓子 子らとまたながき八月きりぎりす 百合山羽公 はたはたに影及ぼせば飛びにけり 中村草田男 秋の…

福神規子 

万緑にひそめるものの息聞かな 祭笛吹き納めたる口を拭く 竹を伐るこだまの中に竹を伐る 福達磨瞳なければけがれなし 浦日和取って返して若布刈舟

はなこころ

鈴虫の声水となり風となり堀口星眠 灯かざせば鈴虫移る松の幹 木津柳芽 鈴虫の高音に心つきゆけず 中島秀子 遅月の雲険しくて轡虫 水原秋櫻子 森を出て会ふ灯がまぶし轡虫 石田波郷 朝霧の雨となりゆく草ひばり 冨岡掬池路

佐野まもる

眉山に雷一つ佐野まもるの忌雷一つ遠く聴く佐野まもるの忌

ウツボカズラなど

芍薬を剪り弔へ身づくろふ 野中亮介

芋虫

友死すと掲示してあり休暇明 上村占魚 秋扇や高浪きこゆ静けさに 水原秋櫻子 檜原湖 七夕の湖漕ぐ舟を鵜が追へる 同上

海の日の水はじきたる子の背中 市村健夫 男手に育ちし男の子冷し瓜 緑川啓子 ゆづり葉や生きるといふは遺さるる角川春樹 落ちてすぐ風に解かるる落し文 北川みよ子 己が身の短き影や炎天下 石井清一郎 月光に愛されて滝ますぐなり奥坂まや いつさいの音のは…

『山籟』平手ふじえ を読む

『山籟』は平手ふじえの第一句集。序句 中西舗土 跋 藤本美和子 「雪垣」同人、「泉」会員。 前田普羅研究をライフワークとする。俳人協会栃木県支部支部長。半生を見る思い。角川書店。2022年 立秋忌が奥付の発行日となっているのも心憎い演出。 風の音高嶺…

遠白き峰刃文のごとく雪連ね 岡田貞峰 地吹雪の中を発ちゆく救護橇 根岸善雄 あかつきの沼の面はがし雁発てり 小森泰子 月光に影をあつめて冬の雁 一民江 描き居し仔馬が顔を寄せてくる 藤野力

柳絮

海の波砕けて鳴らず花大根 中西舗土

錦糸橋

燭台にたまる蝋涙梅雨入かな 西村博子 子の料理早くて旨し梅雨晴間 永峰久比古 囲まるる童女が師匠草の笛 藤野力

大西朋

口開けて鯰のたくる草の上 波の音聞きつつ復習ふ祭笛 あめんぼに張り詰めて居る水面かな

古文書を吹く風にほふ胡麻の花 水原秋桜子 黒日傘くるくるくると人は来ず 徳田千鶴子 摘み残るタラの芽高し夕浅間 岡田貞峰 御岳を蹴上げて育つ木曽子馬 同上 万蕾の雲にふふめり嶺桜 同上 森五月樹頭に白き花綴り 渡邊千枝子 ミモザ照り航くとも見えぬ沖の…

源流は雲踏むところ大瀑布 滝の音滝の音滝まだ見えず 魚籠の鮎跳ねつつ山雨来りけり 堀本裕樹 心臓を掴まれさうな大瀑布 青空を引き込む滝の白さかな 神の大腿骨として瀑布かな

山田真砂年

できたての湯葉の甘さよ山眠る どぢやう鍋悪事企むこと楽し 辞書入れて残暑の重さ革鞄 汗の顔力抜くとき笑ひとなる みささぎの水に育ちし稲を刈る 水澄んで影たひらかに湖国かな 雪道の汚れはじめて村に入る 抑へても肩が笑へり黄水仙 降参のごとく手袋干さ…

風鈴

風鈴の空は荒星ばかりかな 芝不器男 風鈴の遠音聞こゆる涼しさよ 日野草城

私と俳句

この度、エッセーを書かせていただくことになりました。平成十八年卒です。幾つかの若手向けの俳句コンクールでの入賞を機にお声をかけていただきました。お目汚しにて恐縮ですが、今回は「私と俳句」について書かせていただきます。 まずは同窓会報らしく、…

人は今むらさきふかく草を干す 篠田悌二郎 芒原枯れて光れり人に逢はず同上