愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

俳句

いぶき 令和五年二月号より

机ひとつ寝台ひとつ冬の月 黒田杏子 木枯しや夢の続きを夢で見る 今井豊 悼む 友岡子郷氏 雁や泪こぼさず訃報聴く 中岡毅雄 吾亦紅短く弔意つたへつつ 同上 すこしづつ悼むこころや草の花 同上 つぶやきにかよふさびしさ冬の綿 同上 鶏頭や流れて雲の形なさ…

奄美大島

滝令和五年二月号より

鳴りながら冬の風鈴おろされぬ鈴木花明 バレリーナの背のやはらか十二月 芳賀翅子 小六月犬に生れて犬と居る 栗岡信代 寒菊や微かに残る飛行音 鎌形清司 黒波の浜に合掌冬たんぽぽ 八島敏 凍滝の内に秘めたる流れかな 阿部華山 たましひはいつも枯野に置いた…

節分

大空に根を張るつららだと思へ 櫂未知子 初磐梯裳裾を湖に濡らしけり 佐久間晃祥 初日受く日毎に祈る神の山 岡崎宝栄子 薺打つひとりに余ることばかり 徳田千鶴子 人日の手に頂きて新刊書 望月百代 添ひ寝して子に初夢を蹴られけり 五十嵐かつ 富士見ゆる所…

たかんな 2023年1月号 30周年記念号より

寒竹の子の大空をめざすべく 片山由美子 相集ふ人の明るき竹の春 木村秋湖 よろこびに白鳥大き羽ひらく 小野寿子 ひつかかる小骨や義士の日と思ふ 吉田千嘉子 帰り路は星をしみじみ年忘 同上 たかんな30周年 大鷲のたかむらの空飛翔せり 同上 明方の雨意の風…

ひかりつよくして切株の雪解かな 大野林火 凧日和流氷湾に押し入りつ 澤田緑生 月いよいよ大空わたる焼野かな 飯田蛇笏 ためらひて梅の下ゆく芝火あり 松本たかし 塞がむと思ひてはまた炉につどふ 馬場移公子 連翹を束ねて垣を繕へる 那須乙郎 北窓をけふ開…

寒波来る

鷹とめて瑞山の春夕映えす 飯田蛇笏 春さだかわが前に波崩れたり 大野林火 竹の穂の春立つ光ふりこぼす 水原秋櫻子 早春の門すこしぬれ朝のあめ 及川貞 早春の心光りつ多摩に沿ふ 中島斌雄 梅二月ひかりは風とともにあり 西島麦南 山がひの杉冴え返る谺かな …

次井義泰

ジャンボ機の腹を見上ぐる鯊日和

ときをりの水のささやき猫柳 中村汀女 寒明くる水に落ちたる鳥の羽 菅野孝夫 寒晴や鯉につきゆく鯉の影 亀井雉子男 初仕事貧しき人を葬りけり 福島せいぎ 小声には小声で応へお花畑 和田桃 昼からは日の照る畑大根引く 同上 風鐸や月近ければ月に鳴る 同上 …

杉原祐之句集『十一月の橋』(2022年、ふらんす堂)を読む

『十一月の橋』は杉原祐之の第二句集。山茶花同人。夏潮運営委員、俳人協会会員。 栞岸本尚毅。 15句抄。 本著は著者よりご恵贈賜りました。記して御礼申し上げます。 クレヨンを買うて帰らう花菖蒲 おでん屋の湯気の奥なるテレビかな 嬰児に顔まさぐられ…

今田清三句集『岩桔梗』(私家版)を読む

『岩桔梗』は今田清三の第三句集。馬酔木同人。俳人協会会員。 15句抄。 まだ白き富士をマストに海開 岩桔梗紫紺いちづに亨の忌 雪渓のひかりを天に群青忌 駒鳥や山田あまねく水湛へ 竜胆や雲つかむごと岩梯子 立冬や天透きとほる分水嶺 どの日々もたふと…

『毛の国の』星野乃梨子(2010年.角川学芸出版)を読む

『毛の国の』は星野乃梨子の第一句集。運河同人。 序 茨木和生 15句抄。俳人協会栃木県支部事務局次長。 栗の花少年飛込台蹴つて 黒揚羽熊野の闇を剥がれ飛ぶ 暮れてなほ冬雲陸のごとくあり 草の絮真昼の月と気づくまで 綿虫を胸の高さに見失ふ 対岸の野火…

阿吽2023年1月号より

くろがねの罠洗ひ居る猟夫の手 松本英夫 耳洗ふ雨となりけり枯木山 同上 一枚の陵の空蒼鷹 同上 胸張つて鳩歩みくる小春かな 吉田哲二 逆らはずゆく雑踏や冬ぬくし 同上 脚上ぐるすなはち歩む冬の鷺 同上 鍋焼や胴着のままの子と並び 同上 ドーナツの穴より…

七種粥

親猫はずつしり重し冬ごもり 日野草城 冬籠なべて妻子にさからはず 金子星零子 スキー穿く旗風天に鳴りやまず 中島斌雄 直立のスキーに手掛け立ち憩ふ 山口誓子 疵癒えて指先の忘らるる冬ごもり 正木浩一 錐もめば錐に寒灯のぼりくる北光星 常闇を火の渡り居…

『山羊の乳』渡部有紀子(2022年.北辰社)を読む

『山羊の乳』は渡部有紀子の第一句集。天為同人。 序 日原傅 15句抄。俳人協会会員。 神迎ふ湯屋より湯気を太く立て 如月や銀鼠の傘細く締め 二階より既に水着の子が来る 蒼天の光をさばく銀芒 アダムよりエヴァの背高し聖夜劇 スケートの輪を抜けてより母…

冬至

寒垢離に滝団々とひかり落つ山口草堂 ゆめのなかへ道折れてゆく寒念仏 森山夕樹 大樟の走り根焦がす追儺の火 下村ひろし

板橋宿

酉の市小さき熊手を値切りけり 正岡子規 曇りきて二の酉の夜のあたたかに 久保田万太郎

フルムーン

大いなる椿一樹がわれとわが妻なりしひとの墓を覆へる 永田和宏 わが歌の初句が出なくて講演のそのあたりより早口となる 同上 チャート式数Ⅰ数Ⅱの広告の前に待ちをり午後の電車を 同上 風つよきランス大聖堂いづこより神の嗚咽はきこえくるかも 水原紫苑 微…

紫荊の実

依頼者と方針合はぬ夜や幾度寝返りしても心昂ぶり 上司より命ぜられたる初仕事 依頼者の指示の誤り指摘して口論となるその夜眠れず

『雁のころ』木野泰男(2017年.文學の森)を読む

『雁のころ』は木野泰男の第一句集。春野同人。俳人協会会員。 序 黛執 跋 奥名春江 15句抄。 春浅しかもめは羽を光らせて 菜の花や堤の先の町暮れて どの田にも水たつぷりと桐の花 保線夫の掛け声揃ふ竹煮草 山の端に釣瓶落しの空残る 寒落暉一朶の雲を燃…

『緑の夜』木野ナオミ(2014年.角川学芸出版)を読む

『緑の夜』は木野ナオミの第一句集。春野同人。俳人協会会員。 序 黛執 15句抄。 浅春の木馬の眼濡れてをり 枝垂るるも天指すものも枯木なる 真つ白なエプロン八十八夜くる 月代の誰か出て行く下駄の音 行く秋の鯉のひろげてゆく日向 水鳥を眠らせて日の退…

『膝抱いて』星揚子(2022年.本阿弥書店)を読む

『膝抱いて』は星揚子の第一句集。白魚火同人。俳人協会栃木県支部事務局次長。 序 白岩敏秀 跋 星田一草 15句抄。懇切丁寧な序文に言い尽くされているように思うが、よく見ての発見とそれを確かに言い止める表現の的確さがある。切字と比喩、副詞が特徴か…

シクラメン

油手を拭くやボーナス配られつ 黒坂紫陽子 忘年や別れてよりは川に沿ふ 岡本眸 古暦水はくらきをながれけり 久保田万太郎 今年わが虹を見ざりし日記了ふ 福永耕二 掛乞や商がたき連れ立ちて 根岸善雄 掛乞に鸚鵡が口をはさみけり 大網信行 暮るるまで木霊を…

新宿ははるかなる墓碑鳥渡る 福永耕二

初時雨

冬ふかむ父情のふかみゆくごとく 飯田龍太 冬深く墓掘る者は低唱す 有馬朗人 滾々と子の語わき出て深まる冬 轡田進 踊る灯や汝も雪焼の頬燃えて 沢田緑生

中上健次 千年の愉楽

明け方になって急に家の裏口から夏芙蓉の甘いにおいが入り込んできたので息苦しく、まるで花のにおいに息を止められるように思ってオリュウノオバは眼をさまし、仏壇の横にしつらえた台にのせた夫の礼如さんの額に入った写真が微かに白く闇の中に浮き上がっ…

『下町育ち』萩庭一幹(2022年.ふらんす堂)を読む

『下町育ち』は萩庭一幹の第一句集。馬醉木同人会幹事長。 序 德田千鶴子 15句抄。明確に章ごとのテーマがある。第一章は久保田万太郎や永井荷風のような下町の情緒。それは水原春郎師を思うところも在るだろう。第二章は里の風景。第三章は旅吟。第四章は…

入りて問ふ右も左も牛小屋にてにれがむ牛の我を見上ぐる 立ち上がるおほどかにして肥えし牛かかる善き牛に触れしなかりき 厚着して人等働く冬早くその冬長き国の思ほゆ 時雨する伯耆の国に一夜寝るその大山に雪ふるといふ 冬の森の中に古りたる一木ありその…

はつふゆの月

花をへし桜の若葉朱になびく湖の光に遊ぶ日もなし 土屋文明 鴨一羽ゆたけきは幾年ぶりなるぞその青首を割きつつ食らふ同上 追悼斎藤茂吉 ただまねび従ひて来し四十年一つほのほを目守るごとくに 同上

藤井あかり 俳句界2022年11月号より

窓越しに君には見ゆる冬の雨 藤井あかり 二人でよく通った喫茶店。冬には温かい飲み物を注文し、とりとめのない話をしたり、お互い好きな本を読んだりしてすごした。 不意に君が「雨が降ってきたよ」と言ったので、顔を上げたけれど、私の座っている席からは…