愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

俳句

プチポワ・ア・ラ・フランセーズ

草の餅

岩田奎『膚』(ふらんす堂、2022年)を読む

『膚』は岩田奎の第一句集。「群青」会員。跋佐藤郁良、帯 櫂未知子。十五句抄。 耳打のさうして洗ひ髪と知る 旅いつも雲に抜かれて大花野 をりからの夜空の色の日記買ふ 仕舞ふときスケートの刃に唇映る いづれ来る夜明の色に誘蛾灯 憲法記念日白馬白蛇みな…

上巳

野中亮介『つむぎうた』(ふらんす堂、2020年)を読む

『つむぎうた』は野中亮介の第二句集。「花鶏」主宰、「馬醉木」同人。俳人協会評議員。十五句抄。 遙かより帰るところの涼しくて わだつみや月下に壱岐のひと雫 天の川胸にあるとき言葉美し つまさきに力をこめて巣立ちけり 冬帽を握りしめたる正座かな 薫…

続羽鳥湖

羽鳥湖

雛飾る

年新たいつもの道を海に出て 津川絵里子

年の豆

ゆき暮れて雨もる宿やいとざくら 与謝蕪村 影は滝空は花なり糸桜 加賀千代女 大雪にうづまつて咲く椿かな 村上鬼城 藪椿しづかに芯のともり居る 吉岡禅寺洞

水仙

木蓮に白磁の如き日あるのみ 竹下しづの女 うつうつと雨のはくれむ弁をとづ 臼田亞浪

冬薔薇

春雪のとまりし肩をたたきあふ 石橋秀野 淡雪や昼を灯して鏡店 日野草城 ゆふぐれのしづかな雨や水草生ふ 同上 水草生ふひとにわかれて江に来れば 同上 たたずみてやがてかがみぬ水草生ふ 木下夕爾

曽根薫風『喜寿』(ふらんす堂、2023年)を読む

『喜寿』は曽根薫風の第一句集。「馬醉木」同人。俳人協会幹事・同岡山県支部顧問。序 德田千鶴子。十五句抄。 定まりて子にひき渡す凧の糸 母匂ふ陶枕かたく冷たくも 若水の上に日の差す岩の上 初電話胎児が腹を蹴るといふ 節分の雪や板書の手を止めて 画用…

聖歌隊胸の高さにひらきたる白き楽譜の百羽のかもめ 杉崎恒夫 たくさんの空の遠さにかこまれし人さし指の秋の灯台 同上 春雷のあとの奈落に寝がへりす 橋本多佳子

ふぐ刺し

耕や鳥さへ啼かぬ山かげに 与謝蕪村

初雪

物おもふ人のみ春の炬燵かな 高浜虚子 蒲団着て手紙書くなり春の風邪 正岡子規 虫売や闇より暗く装へる 橋本榮治 昨日満ち今日なほ満ちて八重桜 同上 八月が去る遠き蟬近き蟬 同上 福島市飯坂医王寺 芭蕉師弟義経主従夏山路 同上 二本松鬼女伝説のある安達ケ…

余瀬

神木をこぼるる鳥語冬あたたか 蓮實淳夫 落ちてより生き生き池の冬紅葉 同上 霜の花右は江戸への道しるべ 同上 歩足緩めて冬麗に身を任す 同上 紅の雲より氷あられかな 同上 いぬふぐり星のまたたく如くなり 高濱虚子

元日

月は有明にて光をさまれるものから、影さやかに見えて、なかなかにをかしきあけぼのなり 『源氏物語』「帚木」

立山連峰

鳥声を呑んで地にあり春の雲 加藤暁台

かしの森公園

孤獨 田舎の白つぽい道ばたで、 つかれた馬のこころが、 ひからびた日向の草をみつめて居る、 ななめに、しのしのとほそくもえる、 ふるへるさびしい草をみつめる。 田舎のさびしい日向に立つて、 おまへは何を覗いて居るのか、 ふるへる、わたしの孤獨のた…

安里琉太『式日』(左右社、2020年)を読む

『式日』は安里琉太の第一句集。「群青」「滸」同人。十五句抄。 悴みて水源はときじくの碧 古巣見てきて雲のおもての暮れすすむ 山霧の粒立つて日に流れをり はんざきはみづを匿ひ十二月 涼しさや石より雲の彫り出され さざなみにプールの晴れてきたりけり …

興禅寺

あふむけば口いつぱいにはる日かな 夏目成美 桶の尻干したる垣に春日かな 夏目漱石 大仏の俯向き在す春日かな 松本たかし 水底にゆく水うつる春日かな 大谷句仏 一人づつすれちがひゆく春日かな 久保田万太郎 ほろ苦き恋の味なり蕗の薹 杉田久女

飛山城跡

何思ふとなく冬夕焼の坂の上 木下夕爾 スケートや右に左に影なげて 鈴木花蓑

冬紅葉

青霧にわが眼ともして何待つや 藤田湘子

俳人協会冬の俳句展、物故俳人展

粕汁や裏窓にある波頭 千田一路 農鳥の翔らんとして大浅間 伊東肇 わが十指われにかしづく寒の入 岡本眸 白絹のつめたさを縫ひ冬あたらし 能村登四郎 寒流として天竜も伏し流る 百合山羽公

岸本尚毅『雲は友』(ふらんす堂、2022年)を読む

『雲は友』は岸本尚毅の第六句集。「天為」「秀」同人。十五句抄。 誰か居る虫の闇なるぶらんこに 打ち打ちて皆みまかりし砧かな 風は歌雲は友なる墓洗ふ くつきりと黒々と皆秋の暮 行く道は帰る道なり芋嵐 風向きの海へ煙や焼藷屋 月蝕は月を生みつつ浮寝鳥…

聖樹

スケートの汗ばみし顏なほ廻る 橋本多佳子 綿入の袖口そろふ火鉢かな 篠原梵

マザーロード

風花の御空のあをさまさりける 石橋秀野 わが天使なりやおののく寒雀 西東三鬼 いまありし日を風花の中に探す 橋本多佳子 舌頭にとろりと甘き寒の水 高橋淡路女 冬草に黒きステッキ挿し憩ふ 西東三鬼 埋火や思ひ出ること皆詩なり 村上鬼城 埋み火や家ゆすり…

銀杏散る

塩鮭をねぶりても生きたきわれか 室生犀星 雪晴のひかりあまねし製図室 篠原鳳作 よく光る高嶺の星や寒の入 村上鬼城 一月や日のよくあたる家ばかり 久保田万太郎 薺爪あとより紅をさしにけり 青木月斗