愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

俳句

聖樹

スケートの汗ばみし顏なほ廻る 橋本多佳子 綿入の袖口そろふ火鉢かな 篠原梵

マザーロード

風花の御空のあをさまさりける 石橋秀野 わが天使なりやおののく寒雀 西東三鬼 いまありし日を風花の中に探す 橋本多佳子 舌頭にとろりと甘き寒の水 高橋淡路女 冬草に黒きステッキ挿し憩ふ 西東三鬼 埋火や思ひ出ること皆詩なり 村上鬼城 埋み火や家ゆすり…

銀杏散る

塩鮭をねぶりても生きたきわれか 室生犀星 雪晴のひかりあまねし製図室 篠原鳳作 よく光る高嶺の星や寒の入 村上鬼城 一月や日のよくあたる家ばかり 久保田万太郎 薺爪あとより紅をさしにけり 青木月斗

デルムンド

天井の龍身構ふる煤払 岡根谷良臣 百の手が持ち上げ宮の注連飾る 田中和子 マフラーに顔をうずめて待つ返事 馬場﨑令桜 鬼婆も座敷童子もゐろり端 五十嵐暢子 松毬の火玉となりし焚火かな 淺井一志 風音のけふが暮れゆく白障子 池田緑人 鮟鱇のぬかるみのご…

八頭

寺々の中に家ある干菜かな 岡本松浜 聖樹灯り水のごとくに月夜かな 飯田蛇笏 暮れ暮れて餅を木霊の侘び寝かな 松尾芭蕉 冬休とどろに波のひびくなり 久保田万太郎 卵一つポケットの手にクリスマス 西東三鬼 氷魚痩せて月の雫と解けぬべし 正岡子規 初雪やか…

西嶋あさ子『瀝』(瀝の会、2018年)を読む

『瀝』は西嶋あさ子の第五句集。俳人協会顧問。「瀝」代表。十五句抄。 蓮根の穴九つの淑気かな 丹後より丑紅買ひに雪女 降る雪やすぐ香に立ちて胡麻油 降るほどの星をいただき枯木宿 宝恵籠に乗りたやひよいと恋したや 仰向くは燃え立つばかり落椿 花烏賊の…

山中湖

数へ日の月あたたかき夜なりけり 久保田万太郎 枕かへし冬濤の音ひきよせる 橋本多佳子 枯菊や雨きて鶏の冠動く飯田蛇笏 あつものに南瓜の混る冬至かな 島村元

周辺山廬

あららぎのみづかげろふも夏のもの 川音や次第に見えて蜘蛛の糸 雲込めの白花愛しかたつむり 雨粒を涼しく濡らす雨なりけり 翠黛のみづを引き来ぬ洗ひ飯 丘に居て昼のはじまる木槿かな うそ寒のかなへびけぶりやすきかな 霧深く我にしたがふ霧のあり 以上 安…

言葉まだ発せずに居る大旦 片山由美子 声上げて即ちそこに初鴉 西村和子

常磐ホテル

天暮るる綿虫が地に着くまでに 橋本多佳子 水涸れて橋行く人の寒さかな 正岡子規 久方の空いろの毛糸編んでをり 久保田万太郎 風呂吹に杉箸細く割りにけり高橋淡路女 大綿は手にとりやすしとれば死す 橋本多佳子 木の葉髪泣くがいやさにわらひけり 久保田万…

納豆汁

初暦知らぬ月日は美しく 吉屋信子 冬星につなぎとめたき小舟あり 杉山久子 蛇衣を脱ぎ少年の声太る 西村和子 紫陽花や単線海へ出るところ 同上 海紅豆沖はひねもす高曇り 同上 夏日燦うしろ姿の死者ばかり 同上 祭鱧今年は雨をとくと呑み 同上 常夜灯連ねて…

ルブタンの赤い靴底開戦日 東京地裁が「ルブタン」のレッドソールを「一般的なデザイン」と判断 エイゾーコレクションに対する約4200万円の損害賠償請求も棄却 - WWDJAPAN

岡田貞峰『天景』(安楽城出版、2010年)を読む

『天景』は岡田貞峰の第三句集。俳人協会評議員。「馬酔木」顧問。十五句抄。 氷河滝滔々と雲を引き落つる 穂高小屋銀河に倚りて灯を点す 落葉松の琥珀に釣瓶落しの日 白妙の凍鷺は添ふ影もなし 泉声に生れ綿虫の芯あをし 遠雷に絵硝子の使徒蒼く立つ 峠雲垂…

柚子

雪渓に暁光の遠谺かな 松永浮堂 今日入りし港の船もクリスマス 水原秋櫻子 蚯蚓鳴く秩父は山も闇なして 橋本榮治 マニキュアの爪とがらせて冬ふかし 那須淳男 栞とす命名の日の櫨落葉 平子公一 一人づつ渡る木橋や草の花 丹羽啓子 墓碑銘は兄蘇峰の書竹の春 …

ヨシタケシンスケ展

騎初の馬首に天与の星白し 岡田貞峰

マリーゴールド

雪山に雪の降り居る夕かな 前田普羅 雪山を這ひまはり居る谺かな 飯田蛇笏 奉公にある子を思ふ寝酒かな 増田龍雨 空色の水とびとびの枯野かな 松本たかし そのあたり明るく君が枯野来る 西東三鬼

残菊

囀や朝空に甲斐駒ヶ岳 嶺治雄 花の雲きりんの首が見えにけり 同上 鶺鴒の波音叩く別れかな 同上 菊を焚くけむりの折れてまたのぼる 宮津昭彦 山茱萸に日差しが咲いて妻の留守 同上 雪代山女湖底の村の上泳ぐ 同上 駒草の震へむとしてやみにけり 同上 ビアホ…

水澄む

例えば画家が絵を描くのは物を見て感動するからだ。生活のためということは別にして、感動がなければ描かないだろう。 かつて梅原龍三郎は富士山を見て感動し、傍らで画を描いている友人に、「もっと大きく富士を描け」と言ったそうだ。そしてその友人が稲を…

天保三大家(櫻井梅室・成田蒼虬・田川鳳朗)を読む

十五句抄。 櫻井梅室 塵ほどに鳶舞上る卯月かな 水底の草も花さく卯月かな 椀の湯気額のゆげや納豆汁 亀の尾のみじかく歳は暮にけり 成田蒼虬 ひと雫するや朝日の福寿草 人ひとり田中にたちてけさの秋 羽をこぼす梢の鳶や小六月 橋筋は夜の賑ふしぐれかな 田…

酒 仕込み

寒柝の音花街に移りけり 蟇目良雨 いくたびも鮪を跨ぎ御慶かな 同上 将門の日照雨ぱらつく祭かな 同上 良寛の書の余白なる涼しさよ 同上 夕暮れの影をゆたかに芒の穂 同上 やはらかな十一月のものの影 同上 おんどりがめんどり庇ふ秋桜 同上 桂郎忌割箸を割…

釜川

俳句はいきいきと生きる主体のあらわれである 中戸川朝人 末期の眼に対抗できるのは、一會の覚悟だと思っている 絨毯を織る花野より風入れて 同上 サルビアの蜜を吸いてはまた泳ぐ 同上 甕伏する屋根にとどきて花瓢 同上

後の月

さくら咲く真昼は人を奪ふべし 佐川広治 盆唄のまづは山河を讃へけり 同上 寒鰤の光る背なやり捌きたる 同上 昼酒や味噌焦がしたる青朴葉同上 浅草へ電車いつぽん心太 杉良介 秋高く双手になにもなかりけり 鈴木しげを 夏帽の鍔より雲の湧く日かな 同上 刳丸…

上弦

後の月葡萄に核の曇りかな 夏目成美 十三夜孤りの月の澄みにけり 久保田万太郎 碧落に日の座しづまり猟期来る 飯田蛇笏

秋刀魚

ゆく秋をふくみて水のやはらかき 石橋秀野

有馬朗人集 塔第六集

ずずだまの穂にうすうすととほき雲長谷川素逝 荒削りとも言える力動的な美が自然の大景であるのに対し、人事句の完成美。前者はピカソ、男時。後者はクリムト、女時。 世紀末は女時、世紀初頭は男時になるのではないか。 野を焼く火百済の山を低くせり 越南 …

染谷秀雄『息災』(本阿弥書店、2023年)を読む

『息災』は染谷秀雄の第三句集。俳人協会理事・事務局長。「秀」主宰。十五句抄。 一滴を溜めて間遠の添水かな 翔けあがるときの雫や鳥帰る 新涼やものみな高く吊したる 一方のその手冷たし師は病みぬ 渡し場の旗の高さよ更衣 ゆるやかに廻りて戻る釣忍 葭叢…

小野あらた『毫』(ふらんす堂、2017年)を読む

『毫』は小野あらたの第一句集。「群青」所属「玉藻」編集長。序 佐藤郁良、跋櫂未知子、帯星野高士、装丁中原道夫。十五句抄。 掌に泉の雲の収まらず 上流に雲の淀める韮の花 山麓は湖に映らず夏燕 麦蒔や一歩一歩を柔らかく 動き出すまで掌のがうなかな プ…

善光寺

一足の石の高きに登りけり 高濱虚子 汗拭ひつつ小上りに声掛くる 栗山よし子 大ねぶた右手に月を引き連れて 伊藤ふみ 村人の影をつなげて踊の輪平田はつみ 陸奥の闇へねぷたの火の太鼓鈴木幾久 終電に走り込みたる祭上河原 大場ひろみ 鰡飛んでとんで定まる…

林檎狩

落る日や北に雨もつ暮の秋 炭太祇 二三人くらがりに飲む新酒かな 村上鬼城

山葵田

月山の胎内に入る茸採り 伊藤伊那男 母といふ澪標あり秋の空 德田千鶴子 笛吹川笛吹く風に桃熟れぬ 岡田貞峰 波裏を見せて秋濤裏返る 橋本榮治 も一人の吾に呟くや秋蛍 平子公一 火の国の水滔々と小鳥来る 工藤義夫 今生の今日が終りぬ霧の八ヶ岳西川織子