愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

朝井リョウ プルタブの開く音。

帰りの遅い父の食卓にあった缶ビール。そこから拝借する形で飲んでいた母の赤い頬。大人はどうしてこれが美味しいのかと不思議だった、親戚だらけの大晦日。コンビニで気軽に酒を買う先輩をやけに大人に感じた上京後の春。独特の苦味を初めて美味しいと感じ…

宮沢賢治

風とひのきのひるすぎに 小田中はのびあがり あらんかぎりの手をのばし 灰いろのゴムのまり、光の標本を 受けかねてぽろつと落とす

伊藤瑶一郎

平和の春 踏切がまわる 平和の夏 火山が噴き出す

川端康成『眠れる美女』より

小さい虹を見ることから、娘のきれいなひそかなところが目にうかんできて追い払えなかった。それを江口は金沢の川沿いの宿で見た。粉雪の降る夜であった。若い江口はきれいさに息を吞み涙が出るほど打たれたものであった。ひそかなところのきれいさがその娘…

伊豆の踊子

道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思う頃、雨脚が杉の密林を白く染めながら、すさまじい早さで麓から私を追ってきた。

川端康成 横光利一への弔辞

国破れてこのかた、一入木枯にさらされる僕の骨は、君という支えさえ奪われて、寒天に砕けるようである

マックス・フリッシュ

われわれはまさに我々が愛している人間についてこそ、かれがどんな人間かを言うことはできない。われわれはただ、彼を愛するだけである。そしてまさにこの点にこそ、愛が、愛の驚異があるのだ、愛が我々を生あるもののなかに漂わせておく点にこそ

ボードレール

ダンディとは、生き方の美学を宗教にも似た信仰へと高めるもののこと

寺山修司

時計の針が前にすすむと「時間」になります 後にすすむと「思い出」になります

三好達治

春の岬旅のをはりの鷗どり浮きつつ遠くなりにけるかも 「山なみとほに」 山なみとほに春はきて こぶしの花は天井に 雲はかなたにかへれども かへるべしらに越ゆる路