愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

初雪

物おもふ人のみ春の炬燵かな 高浜虚子 蒲団着て手紙書くなり春の風邪 正岡子規 虫売や闇より暗く装へる 橋本榮治 昨日満ち今日なほ満ちて八重桜 同上 八月が去る遠き蟬近き蟬 同上 福島市飯坂医王寺 芭蕉師弟義経主従夏山路 同上 二本松鬼女伝説のある安達ケ…

余瀬

神木をこぼるる鳥語冬あたたか 蓮實淳夫 落ちてより生き生き池の冬紅葉 同上 霜の花右は江戸への道しるべ 同上 歩足緩めて冬麗に身を任す 同上 紅の雲より氷あられかな 同上 いぬふぐり星のまたたく如くなり 高濱虚子

故宮

凍りゆるむ麦生畑の早桃はも 飯田蛇笏 谿空に錆びし日輪紙を漉く 長谷川素逝 峡より峡に嫁ぎて同じ紙を漉く 橋本多佳子 ぬくぬくと老いてねむれる田螺かな 原石鼎 三椏や皆首垂れて花盛り 前田普羅

カート・コバーン

レナード・コーエンをかけてくれ、そしたら俺はいつまでも歌えるから

三日

運命とはどこからかやってくるのではなく、人はそれを育みながら生きていく。生きるとは運命を開花させることである リルケ

二日

夏の日は母の烈しさ 総身を子に与へつつ燃え尽きゆきぬ 徳高博子 夕まぐれ油を移しつつ思ふあぶらの満ちてゆくはたのしゑ 岡井隆

元日

月は有明にて光をさまれるものから、影さやかに見えて、なかなかにをかしきあけぼのなり 『源氏物語』「帚木」

晦日蕎麦

金星から見ると この地球は どんなふうに見えるのだろう やはり空のなかほどに一つだけ 凍りつくようにふるえているのか 身内の闇をもゆり動かす星の瞬きは 孤独な天体同士が交わす通信だろうか 心のうちにバッハのオルガン曲が流れ 小川のせせらぎに水草が…

「他ト我」北原白秋

二人デ居タレドマダ淋シ、 一人ニナツタラナホ淋シ、 シンジツ二人ハ遣瀬ナシ、 シンジツ一人ハ堪ヘガタシ。

ヨン・フォッセ『だれか、来る』

Alone together Alone with each other Alone in each other

サミュエル・ベケット『名付けえぬもの』

Where I am,I don't know,I'll never know,in the silence you don't know,You must go on,I can't go on,I'll go on.

立山連峰

鳥声を呑んで地にあり春の雲 加藤暁台

ふくろう 木下夕爾

まいにち まいにち 私の胸まで来て啼いてゐた ふくろうよー あれはとうさんではなかつたらうか

ひばりのす 木下夕爾

ひばりのす みつけた まだたれも知らない あそこだ 水車小屋のわき しんりょうしょの赤い屋根のみえる あのむぎばたけだ ちいさいたまごが五つならんでいる まだたれにもいわない

かしの森公園

孤獨 田舎の白つぽい道ばたで、 つかれた馬のこころが、 ひからびた日向の草をみつめて居る、 ななめに、しのしのとほそくもえる、 ふるへるさびしい草をみつめる。 田舎のさびしい日向に立つて、 おまへは何を覗いて居るのか、 ふるへる、わたしの孤獨のた…

安里琉太『式日』(左右社、2020年)を読む

『式日』は安里琉太の第一句集。「群青」「滸」同人。十五句抄。 悴みて水源はときじくの碧 古巣見てきて雲のおもての暮れすすむ 山霧の粒立つて日に流れをり はんざきはみづを匿ひ十二月 涼しさや石より雲の彫り出され さざなみにプールの晴れてきたりけり …

興禅寺

あふむけば口いつぱいにはる日かな 夏目成美 桶の尻干したる垣に春日かな 夏目漱石 大仏の俯向き在す春日かな 松本たかし 水底にゆく水うつる春日かな 大谷句仏 一人づつすれちがひゆく春日かな 久保田万太郎 ほろ苦き恋の味なり蕗の薹 杉田久女

飛山城跡

何思ふとなく冬夕焼の坂の上 木下夕爾 スケートや右に左に影なげて 鈴木花蓑

冬紅葉

青霧にわが眼ともして何待つや 藤田湘子

俳人協会冬の俳句展、物故俳人展

粕汁や裏窓にある波頭 千田一路 農鳥の翔らんとして大浅間 伊東肇 わが十指われにかしづく寒の入 岡本眸 白絹のつめたさを縫ひ冬あたらし 能村登四郎 寒流として天竜も伏し流る 百合山羽公

2018年の仕事の6割以上は、1940年には存在していなかつた

岸本尚毅『雲は友』(ふらんす堂、2022年)を読む

『雲は友』は岸本尚毅の第六句集。「天為」「秀」同人。十五句抄。 誰か居る虫の闇なるぶらんこに 打ち打ちて皆みまかりし砧かな 風は歌雲は友なる墓洗ふ くつきりと黒々と皆秋の暮 行く道は帰る道なり芋嵐 風向きの海へ煙や焼藷屋 月蝕は月を生みつつ浮寝鳥…

聖樹

スケートの汗ばみし顏なほ廻る 橋本多佳子 綿入の袖口そろふ火鉢かな 篠原梵

マザーロード

風花の御空のあをさまさりける 石橋秀野 わが天使なりやおののく寒雀 西東三鬼 いまありし日を風花の中に探す 橋本多佳子 舌頭にとろりと甘き寒の水 高橋淡路女 冬草に黒きステッキ挿し憩ふ 西東三鬼 埋火や思ひ出ること皆詩なり 村上鬼城 埋み火や家ゆすり…

冬の月

すべてのものにはひびがある。 そしてそこから光が差し込む。 レナード・コーエン

銀杏散る

塩鮭をねぶりても生きたきわれか 室生犀星 雪晴のひかりあまねし製図室 篠原鳳作 よく光る高嶺の星や寒の入 村上鬼城 一月や日のよくあたる家ばかり 久保田万太郎 薺爪あとより紅をさしにけり 青木月斗

銀杏散る

しら珠の数珠玉町とはいづかたぞ中京こえて人に問はまし 山川登美子

リヒャルト・ワーグナー

仕事をやるなら、上機嫌でやれ

金子みすゞ

上の雪 寒かろな。 つめたい月がさして居て 下の雪 重かろな。 何百人も乗せて居て。 中の雪 さみしかろな。 空も地面(じべた)もみえないで。

デルムンド

天井の龍身構ふる煤払 岡根谷良臣 百の手が持ち上げ宮の注連飾る 田中和子 マフラーに顔をうずめて待つ返事 馬場﨑令桜 鬼婆も座敷童子もゐろり端 五十嵐暢子 松毬の火玉となりし焚火かな 淺井一志 風音のけふが暮れゆく白障子 池田緑人 鮟鱇のぬかるみのご…