愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

覚えなき切り傷勤労感謝の日 野見山ひふみ

窓に富士得たる勤労感謝の日 山下滋久

汐桶に海いろ勤労感謝の日 角川源義

あかあかと月の障子や亥の子餅 服部嵐翠

子が無くて夕空澄めり七五三 星野麦丘人

子らの間に坐つてをりて春支度 長谷川かな女

木かくれにうぶすなともる年用意 伊東月草

木のまはりばかり澄みゆく年用意 廣瀬直人

年用意利尻昆布の砂落す 細見綾子

 

不二を見て通る人あり年の市 与謝蕪村

年の市浮雲月をかくしけり 久保田万太郎

歳の市裏通りより入りけり 桂信子

歳の市青空ひろくなりにけり 角川春樹

襤褸市は曇りて雨の甲斐秩父 尾崎紅葉 

うつくしき羽子板市や買はで過ぐ 高浜虚子

行く人の後ろ見送り飾売 高浜虚子

その前をきれいに掃いて飾売る 山口青邨

煤払火の見の北はいつも蒼し 大峯あきら

門松の立ち初めしより夜の雨 小林一茶

吾子はみな柚子湯の柚子を胸に抱き 山口青邨

柚子湯して妻とあそべるおもひかな 石川桂郎

柚子湯の出て夫の遺影の前通る 岡本眸

柚子風呂を出てしなやかな声をだす 末次世志子

慈善鍋遮断機夜の音おろす 角川源義

掛乞に幼きものをよこしたる 中村汀女

届きたる歳暮の酒を子に持たす 安住敦 

年木割かけ声すればあやまたず 飯田蛇笏

年木積むや凍らんとして湖青き 内藤吐天

年木樵る音がつづきて居しが止む 清崎敏郎

青かりし時より清し餅莚  大島蓼太

林中に日がさし入りて餅莚 柴田白葉女

餅の音ひびけば朴の木がねむり 飯田龍太

餅配夕べ明るき山を見て 伊藤通明

何もかも御用納の風邪ぐすり 有働亨

御用仕舞芝生の日ざし澄みにけり 富田野守

隅田川見て刻待てり年わすれ 水原秋桜子

聖母像仰ぎ来し夜を年わすれ 大島民郎

鍋に火のよく廻りたる年忘れ 佐川広治

音たのしもの煮ゆる炉に年を守り 森澄雄

鳥籠を洗ひて年を送りけり 飴山實