愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

馬酔木第100巻第12号

蘆刈の淡海の夕日押し倒す 小森泰子

雁の空少年人を恋ひ初めし 久留米脩二

猿酒を蔵しまたぎの山暮れぬ 渡会昌広

むら雲の流れて速し崩れ簗 一民江

蘆刈つて水面の空を広げけり 平田はつみ

椋鳥の空の果より湧き起る 稲葉三恵子

コスモスの径より婦警着任す 城台洋子

栗剥くや子の遺影下に机寄せ 熊丸淑子

朝鵙や吾子の忌の窓開け放つ 神宮きよい

種こぼしつつ鶏頭真赤に朽ち 小坂優美子

まなうらを光る雲ゆく大枯野 夏生一暁

沈む日のわが胸濡らす草の花 川内谷育代

ときに空仰ぎてをりぬ蓮根堀 中島久子

大和絵を見にゆく後の更衣 市村明代

初蝶と呟く限り旅心 榎本好宏

陽炎や人は遠くをいつも恋ひ 星野椿

母の忌や枯紫陽花に色すこし 福井隆子

あかあかと刃物研ぎをり山眠る 田中立花

まだ青き毬栗はねて父の墓 同上

夜学子のズボン塗装の付きしまま 藤井彰二

秋涼し赤子の伸びは蹠まで 恩田洋子

鵙の贄見しより明日を信じけり 本谷英基