愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

馬酔木第101巻第2号

鼻先を犬に舐められ年男 那須淳男

沸騰のあと湯がしづか春を待つ 西川織子

両の手に包む子の頬雪催 丹羽啓子

武蔵野にふるみちのこり咲くすみれ 水原秋桜子

綿虫や歪みふくらむ遊びの輪 藤野力

ふりだしにもどす話や狸汁 同上

蓮根掘膝の水嵩かき分けて 堤京子

枯野ゆくわれには熱き血の流れ 長谷川閑乙

海鼠割く薄刃を水に潜らせて 近藤暁代

冬紅葉河原の石のみな白く 大森三保子

落葉松の縦割りの空冬に入る 鈴木まゆ

冬の鵙竹幹に日の透きとほり 長谷川祥子

寒鯉のいよいよ水を重くせり

島田万紀子

冬麗の湖に浮かべる竹生島 駒井でる太

三日月の高きに雨後の一の酉 斉木永久

谷底へとどく日差や返り花 久留米脩二

鷹渡る空一天を絞り込み 一民江

冬の蝶風の継目を探るかに 

平田はつみ

雲居の富士をりをり見上げ晩稲刈 間宮あや子

磐座にこぼるるひかり尉鶲 徳井節子

にはとりのよく鳴く日なり大根干す 市村健夫

枯るるもの枯れて玉なす日の昇る 大谷昌子

穂すすきを言葉生まるるまで揺らす 栗山よし子

竹林に幹の打ち合ふ寒さかな 稲葉三恵子

千本格子の町並暗く柊挿す 同上

職退きて拾ふ夢あり冬菜畑 城台洋子

玉蜀黍焼く香に寄りぬ子の忌日 熊丸淑子

古利根の風が啼くなり青木の実 神宮きよい

木枯や星降るやうに山家の灯 窪田粧子