『松韻』は根岸善雄の第三句集。
十五句抄
八月の海峡まぶし烏賊を干す
月明の湖に白鳥珠となる
鷺草の地に曳く影も風に舞ふ
雁ゆきて夜はしろがねの結氷湖
てのひらにともる螢のつめたさよ
椎の木に水のにほひの熱帯夜
風花のあと群青の山毛欅の空
止り鮎水底を日の移りけり
翅立てて鳴く邯鄲のうすみどり
青葦に夜の沈みゆく遠雪加
日を載せて淵をめぐれる花筏
こころ飢ゑゐたる南蛮煙管かな
まどろみの落花のなかに醒めて候
日照雨過ぎたる凌霄の花雫
大年の汐騒松に韻きけり
*本書はご遺族より頂戴致しました。記して感謝致します。