愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

根岸善雄 第三句集『松韻』を読む


f:id:inamorato:20220206144110j:image

『松韻』は根岸善雄の第三句集。

十五句抄

八月の海峡まぶし烏賊を干す

月明の湖に白鳥珠となる

鷺草の地に曳く影も風に舞ふ

雁ゆきて夜はしろがねの結氷湖

てのひらにともる螢のつめたさよ

椎の木に水のにほひの熱帯夜

花のあと群青の山毛欅の空

止り鮎水底を日の移りけり

翅立てて鳴く邯鄲のうすみどり

青葦に夜の沈みゆく遠雪加

日を載せて淵をめぐれる花筏

こころ飢ゑゐたる南蛮煙管かな

まどろみの落花のなかに醒めて候

日照雨過ぎたる凌霄の花雫

大年の汐騒松に韻きけり

 

*本書はご遺族より頂戴致しました。記して感謝致します。