愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

山田真砂年

できたての湯葉の甘さよ山眠る 

どぢやう鍋悪事企むこと楽し

辞書入れて残暑の重さ革鞄 

 

 

汗の顔力抜くとき笑ひとなる

みささぎの水に育ちし稲を刈る

水澄んで影たひらかに湖国かな

雪道の汚れはじめて村に入る

抑へても肩が笑へり黄水仙

降参のごとく手袋干されをり

印度

牛と来てそのまま牛と泳ぎたり

中国・カシュガル

口の辺に息を氷らせ駱駝鳴く

カンボジア

ほうたるのあのあたりから地雷原

汗かかぬ兵士に笑ひかけらるる

チベット

神のみの天地八月雪が降る

中国・ウイグル自治区

灼くる地に絵を描き言葉教へらる

老人の隅で怒れり唐辛子

中国四川省

長江に鶏鳴を聞く寒さかな

ネパール

花はみな原色に咲き日の盛り

 

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