愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

古文書を吹く風にほふ胡麻の花 水原秋桜子

黒日傘くるくるくると人は来ず 徳田千鶴子

摘み残るタラの芽高し夕浅間 岡田貞峰 

御岳を蹴上げて育つ木曽子馬 同上

万蕾の雲にふふめり嶺桜 同上

森五月樹頭に白き花綴り 渡邊千枝子

ミモザ照り航くとも見えぬ沖の船 同上 

この海の彼方は知らず時計草 同上

白日の虚空を掴み鉄線花 小野恵美子

音立てて真昼過ぎゆく黒牡丹 橋本栄治

磯鵯や空のはたては海の果 同上

折目よく帆の畳まれて梅雨の入 工藤義夫

単衣着て水の如くに老いゆくも ほんだゆき

天窓のあをき光や夜の新樹 藤井寿江子

緑陰の風につどへり紙芝居 中村房子