愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

わが言へば妻が言ひ消す鉦叩加藤楸邨

書いてゆくひとつのことに鉦叩 中村汀女

いねがての潮騒のなか鉦叩 佐野まもる

きりぎりす潮よりしづかなるはなし 山口誓子

子らとまたながき八月きりぎりす 百合山羽公

はたはたに影及ぼせば飛びにけり 中村草田男

秋の蚊の子をなさぬ血は薄からむ佐野美智

秋の蜂影と別れて去りにけり 右城暮石

秋の蜂やすらひし辺の濡れてをり 能村登四郎

瀬をのぼるうすきひかりの秋蛍 石原八束