愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

芭蕉雑談 正岡子規

一人にして二百の多きに及ぶ者古来稀なるところにして、芭蕉叉一大文学者たるを失はず。

 

芭蕉の文学は古を模倣せしにあらずして自ら発明せしなり。貞門、檀林の俳諧を改良せりと謂はんよりは寧ろ蕉風を創開せりと謂ふの妥当なるを覚ゆるなり。而して其の自流を開きたるは僅かに没時を去る十年の前にして、詩想いよいよ神に入りたるは、三四年の前なるべし。この創業の人に向かって僅々十年間に二百以上の好句を作出せよと望む。亦無理ならずや。

 

発句は文学なり 連俳は文学に非ず。

連俳に貴ぶは変化なり。変化は即ち文学以外の分子なり。蓋しこの変化なる者は終始一貫せる秩序と統一との間に変化する者に非ずして、全く前後相関連せざる急遽の変化なればなり。