愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

『下町育ち』萩庭一幹(2022年.ふらんす堂)を読む

『下町育ち』は萩庭一幹の第一句集。馬木同人会幹事長。 序 德田千鶴子 15句抄。明確に章ごとのテーマがある。第一章は久保田万太郎永井荷風のような下町の情緒。それは水原春郎師を思うところも在るだろう。第二章は里の風景。第三章は旅吟。第四章は山の風景だ。編年体が多い中で、面白い構成ではないか。

花人の皆しなやかにすれ違ふ 

橋桁に卯波のかけら北斎

ゆつくりと水昏れてゆく百日紅

寒稽古力士の背より湯気立ちぬ

初観音大提灯より人湧きぬ

船音の天へ抜けゆく恵方

抜き差しの鷺の脛より春動く

田水引く忽ち雲の影走り

水韻く方へ漂ひ梅雨の蝶

柿簾夕陽の色を余しけり

かいつぶり暮光の中に渦ひとつ

蔵町の窓開け放ち栃の花 

唐辛子干すや日の濃き翁道

冬凪に聞く島原の子守唄

渓流の魚籠へ白桃冷やしけり

本著は著書より寄贈を受けました。記して感謝致します。