『下町育ち』は萩庭一幹の第一句集。馬醉木同人会幹事長。 序 德田千鶴子 15句抄。明確に章ごとのテーマがある。第一章は久保田万太郎や永井荷風のような下町の情緒。それは水原春郎師を思うところも在るだろう。第二章は里の風景。第三章は旅吟。第四章は山の風景だ。編年体が多い中で、面白い構成ではないか。
花人の皆しなやかにすれ違ふ
橋桁に卯波のかけら北斎忌
ゆつくりと水昏れてゆく百日紅
寒稽古力士の背より湯気立ちぬ
初観音大提灯より人湧きぬ
船音の天へ抜けゆく恵方道
抜き差しの鷺の脛より春動く
田水引く忽ち雲の影走り
水韻く方へ漂ひ梅雨の蝶
柿簾夕陽の色を余しけり
かいつぶり暮光の中に渦ひとつ
蔵町の窓開け放ち栃の花
唐辛子干すや日の濃き翁道
冬凪に聞く島原の子守唄
渓流の魚籠へ白桃冷やしけり
本著は著書より寄贈を受けました。記して感謝致します。