愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

『毛の国の』星野乃梨子(2010年.角川学芸出版)を読む

『毛の国の』は星野乃梨子の第一句集。運河同人。 序 茨木和生 15句抄。俳人協会栃木県支部事務局次長。

栗の花少年飛込台蹴つて

黒揚羽熊野の闇を剥がれ飛ぶ

暮れてなほ冬雲陸のごとくあり

草の絮真昼の月と気づくまで

綿虫を胸の高さに見失ふ

対岸の野火音もなく立ち上がる

若鮎は月の光に遡る

一斉に鳩は光へ七五三

耳朶厚き仏彫りけり朴の花

口紅の折れてしまひし近松

畳拭き上げ夕立の音軽し

耳朶につけたし寒の三日月は

草虱剥ぐふりをして触れてみる

改札にずつと手を振る夏帽子

火の神となれる校長キャンプの夜

本著は著者よりご恵贈賜りました。記して御礼申し上げます。