愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

ときをりの水のささやき猫柳 中村汀女

寒明くる水に落ちたる鳥の羽 菅野孝夫

寒晴や鯉につきゆく鯉の影 亀井雉子男

初仕事貧しき人を葬りけり 福島せいぎ

小声には小声で応へお花畑 和田桃

昼からは日の照る畑大根引く 同上

風鐸や月近ければ月に鳴る 同上

海開きしてより海の子となりぬ 同上

薫風の止む一瞬の的射貫く 同上

人血に膨らむ山蛭の悶え 同上

産卵の背びれは風に振る素秋沼尾将之

うち揃ふ出雲高稲架夫が国 尾野恵美

山間の一音高き威銃 勝山栄泉

箸割れば柾目の香あり豊の秋 宮前良子

竹筒の七味ふた振りささめ雪 工藤義夫

暖流の靄逆巻けり鰤起し 同上

白魚の夜を灯して四手網 小杉伸一路