愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

岸本尚毅『雲は友』(ふらんす堂、2022年)を読む

『雲は友』は岸本尚毅の第六句集。「天為」「秀」同人。十五句抄。

 

誰か居る虫の闇なるぶらんこに

打ち打ちて皆みまかりし砧かな

風は歌雲は友なる墓洗ふ

くつきりと黒々と皆秋の暮

行く道は帰る道なり芋嵐

風向きの海へ煙や焼藷屋

月蝕は月を生みつつ浮寝鳥

髭胸毛ゆたかに達磨冬の雲

榾といふ榾の炎のつながれる

地酒の名聞いて忘れて燗熱く

鳥影の瓦に早し玉椿

絵の外に我立つてゐる涅槃かな

眠りつつ舌なめづりをして子猫

夜の花のその枝長し雲に沿ふ

水の辺に水を供へし川施餓鬼