愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

2023-05-01から1ヶ月間の記事一覧

小石川後楽園

蜩や水に親しきたなごころ曾根毅 胸中に入る新緑の山河かな松永浮堂 幕の内弁当ハンカチを膝に徳田千鶴子

石川啄木終焉の地

よい散文を書く作業には、三つの段階がある。構成を考える(作曲する)という音楽的段階、組み立てるという建築術的段階、 そしておしまいに、織り上げるという織物的段階である ヴァルター・ベンヤミン

苗札 夏蚕

瀬の岩に光陰すごす穴まどひ 秋元不死男 ライオンの欠伸火の色寒汽笛 同上 春夕焼け捨ててきしものみな赤く 鈴木大輔 餌を撒けば白鳥号に白鳥来 興梠隆 青春空を泳ぐがごとき機影かな 松波美恵 あたたかや革を以て研ぐ花鋏 森脇由美子 立春のミルクを沸かす…

シャッターの閉まるは海猫鳴くに似て君にあひたし夜のプラタナス

徳田千鶴子

母在さば足らざるはなし花万朶

北原白秋『雀の生活』

雀を観る。それは此の「我」自身を観るのである。それは此の「我」自身を識ることである。雀は我、我は雀、畢竟するに皆一つに他ならぬのだ。

レース編むみどりの雨の降る夜は 菖蒲あや すべて失ふ春眠の出口にて 石倉夏生 空蝉の掴んでをりぬ爆心地 神田ししとう 運鈍根梅雨の畳に両手つき 鈴木六林男 上背をいつもほめられ麦の秋 松本勇二

深川淑枝『海市』(2013年、文學の森)を読む

『海市』は深川淑枝の第三句集。俳人協会会員。「空」同人。十五句抄。 倒す樹に一礼をして冬木樵 消えてより強く匂へる畦火かな たてがみに風を飾りて仔馬駆く 陸深く鷗入りきし風邪心地 狼の居し頃の闇ふさふさと 自画像の鎖骨浮き立つ稲光 父葬りきて蜜を…

『通俗書簡文』樋口一葉

胡蝶の夢のまだ覚めぬ間に、花は青葉に成り申し候

會津八一

雨含む風や晩夏のたなごころ 中西夕紀 苔の階苔の畳や霧のぼる 同上 どの水も千曲に注ぎ青田波 同上 よしきりや佐久の平の水勁し 原雅子 ひらけば地図に霧の流れて山国は 同上 芳名の失せてゆくなり油照 仲寒蟬 百日紅いくつも過ぎてふるさとへ 同上 鮎釣の…

筍を剥く妻をんな盛りなる 棚山波朗 水車まだ水を落とさず波朗の忌 坪井研治 春の灯を分け合ふ人のなかりけり 太田直樹 波朗忌や錆ひとつなき白椿 武井まゆみ

柏餅

白粥にしづむ梅干二月尽 みの虫の月の光をのぼりけり 波郷忌の近づく松のひびきかな 鰭酒や夜は白波の響灘 榧の木の上の太白夕爾の忌 榾木積む湖北は星をふやしつつ 函嶺のうすむらさきの四月かな 大川の紺を遠見の出初かな 以上 大嶽青児

代田

膝ついて拭く床松の過ぎて居し 深川淑枝 竹筒の浅葱の匂ふ若井かな 同上 雨後の海遠くにひかり寒見舞 同上 根上りの松に風鳴る雛祭同上 身を折れば帯きしみたる朧かな 同上 沖へ海女送る纜解きにけり 同上 音たてて若布の乾く荒岬 同上

喜連川

時おをき老樹の雫落つる日のしづけき雨は朝にこそあれ 若山牧水

砺波

連山と雲の影なる代田かな

佐久平

望の月鯨の海を照らしけり 亀井雉子男 くれないの鱗となりし鱗雲同上 賢治忌の星空近く眠りけり 同上 藁塚に隠るる鬼の遊びかな 同上 虫の闇その闇にみな眠りけり 同上 身ほとりの木より草より秋の声 同上 山坂を髪乱れつつ来しからにわれも信濃の願人の姥 …

『沈黙の函』飯田マユミ(2023年、コールサック社)を読む

『沈黙の函』は飯田マユミの第一句集。俳人協会会員。「枻」同人。十五句抄。 影ひとつゆるがぬ真昼威銃 雁や掬へば消ゆる海の色 水滴の張りつくコップ原爆忌 セーターを着てやはらかき妻となる 金髪の弟のいる祭かな 寒紅は深紅生涯子を生さず 寒いのは羽を…

池田利子『蛍』(2023年、文學の森)を読む

十五句抄 白息を碁石に吹きかけ初手打つ 湯気あげて駿馬ぬたうつ春の泥 桜散る桜畳を厚くして 人に添ひ人に媚びざるつばくらめ 街の音消して泰山木の花 水底の拍動のごと泉湧く 大トマト日を溜め込みて熟れにけり 散骨船虹に向つて舵を切る たましひを擲つご…

いづれのおほんときにや日永かな 久保田万太郎 蜆舟水の重みも上げにけり 石井いさお それぞれがわたくしごとを雪の窓 谷口智行 産湯冴ゆ原初の忌をここにとどめ 同上 告げざりし恋もありけり枇杷の花 西村和子