2024-01-01から1年間の記事一覧
炭ひくや薄日の中に切れてゆく 切口へ日あたる炭や切り落す 熊の皮の荒毛光る処火鉢おく 水鳥やマントの中のふところ手 朴の月霜夜ごころにくもりけり うたれ雉子を灯によせて見る霜夜かな 寒月やわれ白面の反逆者 大正九年
「六十二のソネット」 谷川俊太郎 41 空の青さをみつめていると 私に帰るところがあるような気がする だが雲を通ってきた明るさは もはや空へは帰ってゆかない 陽は絶えず豪華に捨てている 夜になつても私達は拾うのに忙しい 人はすべていやしい生れなので …
『見張り鶴』は伊東白楊の第一句集。「馬酔木」「向日葵」同人。序・水原春郎。跋・那須淳夫。俳人協会会員。十五句抄。 柚子照るや尾根の稜線峡に落つ ラムネ飲む海の青空傾けて 鳰鳴くや波音いつか雪となる 喉朱き鳥の来てゐる芽立前 一脚にねむる遅日のフ…
竃火のどろどろ燃えて初御空 星々をよぶかに猫の恋はげし 原石鼎
日向より日向に飛べり冬雀 今瀬一博 言ふべきを言ふが身上走り蕎麦 小野恵美子 うす墨の朱の一点や屏風鶴 平子公一 鯊を釣る桟橋子らの足垂れて 小田司 缶ビール手に鯊釣の移り来る 同上
年をとる それは青春を 歳月のなかで組織することだ ポール・エリュアール
自分の愛する誰かに悲しみを打ち明けることができる時には その悲しみはほとんどなくなる。ボナール『友情論』
「相聞(その三)」芥川龍之介 また立ちかへる水無月の 歎きを誰にかたるべき。 沙羅のみづ枝に花さけば、 かなしき人の目ぞ見ゆる。
青葉嵌めて晴れたる空やもみ干せり ポプラ空を刷きたる後の深さかな 重田徳 この道を泣きつつ我の行きしこと 我がわすれなばたれか知るらむ 田中克己 ちらと燃えて燃えのいのちの堪へがたく夜空をぬひて流るるものか 大岡信
朝影にわが身はなりぬ玉かぎるほのかに見えて去にし子ゆゑに 柿本人麻呂(万葉集) 愁ひつつ去にし子ゆゑに藤のはな揺る光さへ悲しきものを 愁ひつつ去にし子ゆゑに遠山にもゆる火ほどの我がこころかな この心葬り果てんと秀の光る錐を畳に刺しにけるかも 斎…
銀をたくさん持っている者は仕合せだろう。麦をたくさん持っている者は嬉しいだろう。 だが、何も持っていない者は眠れるだろう。
葦の地方 小野十三郎 遠方に 波の音がする。 末枯れはじめた大葦原の上に 高圧線の弧が大きくたるんでゐる。 地平には 重油タンク。 寒い透きとほる晩秋の陽の中を ユーフアウシャのやうなとうすみ蜻蛉が風に流され 硫安や 曹達(ソーダ)や 電気や 鋼鉄の原で…
鎮魂歌 西垣脩それらはまだ青みを深くのこした銀杏の葉折重なり 死の静謐にひしめきあいつつつめたい長い甃のほとりに吹きたまっているのであった親しい友たち 君らは沈黙の堆積となって紺青の海のおもてを漂い流れほろびつつ珊瑚礁のかげのない陰に今もなお…
幸福になるなんて、ごく簡単なことよ。成り行きに委ねればそれでいいの。ジャン・アヌイ
わたしは火と戯れているのに、火のほうでは燃えてくれようともしない ジャン・アヌイ
柳宗悦 急ゲド 水ハ 流レジ 月ハ 古シ 泉ハ 新シ 水ハ 松 根強シ 枝聳ユ竹 幹直シ 陰清シ 梅 香リミツ 雪フルモ
藪枯らしの蔓引きをれば秋日落つ 矢部敏江 陰陽図月とも胎の形とも 大井正志 俳の字でつながつてゐる良夜かな 北大路翼 空海の朝餉千年秋気澄む 後藤好文 吾亦紅ときどき良き人とは思ふ 佐藤まりむら 勘弁してやれと紫蘇の実しごきつつ 永島のりお どの夏掛…
難問は分解せよ デカルト『方法序説』
秋澄むや遺影の中の顕微鏡 今井聖 花葛の真下を攻むるルアーかな 同上
孤独と連帯性とはどうつながるのか・・・孤独とは何時も離れたところから、醒めた目で自分を見つめる魂であり、そのためには自分を突き放し、自分がまとっている衣装や粉飾をはぎ取って丸裸にもする。それは逆に、何を見、何を意識してもその丸裸の自分にた…
七月の草はらに真っ白の猫が来て こっちを向いて座った 「これから始まる良い事も悪い事も みんな受け取るように 贈りものですから」と猫は言った 山崎るり子 晩年の空あをあをといかのぼり 楠戸まさる おほがねの一打すなはち春動く 同上 ネフスキー通りを…
下京をさらに下がりし日永かな 小川軽舟 朧より生まれ霞にかへりけり 同上 父帰れば畳に泳ぎ見する子よ 同上 終りなく雪こみあげる夜空かな 同上 麗かや眠るも死ぬも眼鏡取る 同上 雪になりさうと二階の妻降り来 同上 火の影を踏む白足袋や薪能 同上
勇魚取り海や死にする山や死にする死ぬれこそ海は潮干て山は枯れすれ 万葉集 巻十六・三八五二
ただ日々におのれが胸懐をうつし出て、けふはけふのはいかいにして、翌は又あすの俳諧也
羽のごとくにはあらで 軽くあれかし 鳥のごと
ベルグソン『笑の哲学』 人が自己を孤立していると感じたら、その人は滑稽を味わわないであろう。笑は反響を必要とするもののようである。 われらの笑は常に団体の笑である。 どんなに淡白であっても、笑は常に或る黙契を潜めている。それは、現実或いは仮想…
しみじみと美味しい酒が良い酒だ
自転車の後ろに乗ってこの街の右側だけを知っていた夏 年輪の外側に立つわたしたち未来の蜘蛛や蜻蛉にであう 落ちないでいる岩と落ちてしまう岩どちらも君のようだと思う 火照る顔ふたつを窓に映しつつケーブルカーで夜へと下りる 木下龍也
微笑は笑の完成だ。笑の裡には、直ぐ鎮まるとはいへ、常に不安があるからだ。微笑の裡では一切が寛ぎ、何の不安の抵抗もないからだ。 アラン『精神と情熱に関する八十一章』
風景水のなかに火が燃え夕靄のしめりのなかに火が燃え枯木のなかに火が燃え歩いてゆく星が一つ