愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

2024-01-01から1ヶ月間の記事一覧

曽根薫風『喜寿』(ふらんす堂、2023年)を読む

『喜寿』は曽根薫風の第一句集。「馬醉木」同人。俳人協会幹事・同岡山県支部顧問。序 德田千鶴子。十五句抄。 定まりて子にひき渡す凧の糸 母匂ふ陶枕かたく冷たくも 若水の上に日の差す岩の上 初電話胎児が腹を蹴るといふ 節分の雪や板書の手を止めて 画用…

聖歌隊胸の高さにひらきたる白き楽譜の百羽のかもめ 杉崎恒夫 たくさんの空の遠さにかこまれし人さし指の秋の灯台 同上 春雷のあとの奈落に寝がへりす 橋本多佳子

三回忌

雪掻の汗そのままに急須とる 岩田奎 くるくると出づる口紅蚊喰鳥 同上 面白い蟷螂生れつづくなり 同上

Bruit de l'eau / su de l'eau Ombre d'une feuille su une autre feuille

ふぐ刺し

耕や鳥さへ啼かぬ山かげに 与謝蕪村

初雪

物おもふ人のみ春の炬燵かな 高浜虚子 蒲団着て手紙書くなり春の風邪 正岡子規 虫売や闇より暗く装へる 橋本榮治 昨日満ち今日なほ満ちて八重桜 同上 八月が去る遠き蟬近き蟬 同上 福島市飯坂医王寺 芭蕉師弟義経主従夏山路 同上 二本松鬼女伝説のある安達ケ…

余瀬

神木をこぼるる鳥語冬あたたか 蓮實淳夫 落ちてより生き生き池の冬紅葉 同上 霜の花右は江戸への道しるべ 同上 歩足緩めて冬麗に身を任す 同上 紅の雲より氷あられかな 同上 いぬふぐり星のまたたく如くなり 高濱虚子

故宮

凍りゆるむ麦生畑の早桃はも 飯田蛇笏 谿空に錆びし日輪紙を漉く 長谷川素逝 峡より峡に嫁ぎて同じ紙を漉く 橋本多佳子 ぬくぬくと老いてねむれる田螺かな 原石鼎 三椏や皆首垂れて花盛り 前田普羅

カート・コバーン

レナード・コーエンをかけてくれ、そしたら俺はいつまでも歌えるから

三日

運命とはどこからかやってくるのではなく、人はそれを育みながら生きていく。生きるとは運命を開花させることである リルケ

二日

夏の日は母の烈しさ 総身を子に与へつつ燃え尽きゆきぬ 徳高博子 夕まぐれ油を移しつつ思ふあぶらの満ちてゆくはたのしゑ 岡井隆

元日

月は有明にて光をさまれるものから、影さやかに見えて、なかなかにをかしきあけぼのなり 『源氏物語』「帚木」

晦日蕎麦

金星から見ると この地球は どんなふうに見えるのだろう やはり空のなかほどに一つだけ 凍りつくようにふるえているのか 身内の闇をもゆり動かす星の瞬きは 孤独な天体同士が交わす通信だろうか 心のうちにバッハのオルガン曲が流れ 小川のせせらぎに水草が…