愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

蜥蜴

人生の終着駅や籐寝椅子 秋山千代子

アマリリス

若葉には春が詰まつているのかも萌黄青竹千草若苗

麦秋

枯蘆に曇れば水の眠りけり 阿部みどり女

伊藤瑶一郎

平和の春 踏切がまわる 平和の夏 火山が噴き出す

 中城ふみ子

白き海月にまじりて我の乳房浮く岸を探さむ又も眠りて

喫茶店は大人の学校である

アカシアの花

くぐるべき門の向かうに桜かな 才野洋 竜の玉よきのことのみを母に告ぐ 土田利子 目開けば海目つむれば閑古鳥 飯田龍太 知床の雪渓に星下りむとす 清水道子 ひとすぢの螢に闇の息づけり 同上 立ちあがる子鹿に草の匂ひかな 白岩敏秀

苜蓿

打ち方を教へて打たれ水鉄砲 横山喜三郎 炎天を来て半熟になつてをり 越前春生 今日の分全て注いでゆく西日 松井勉 寒がりの最期は菊の厚布団 長谷川洋児 熱燗を今日咜りたる部下に注ぐ 清水呑舟 先輩を渾名で覚え新社員 高田敏男 御慶述ぶインターホンに一…

カーネーション

夕富士のうすむらさきの端午かな 松尾隆信 月光の新樹並木をポストまで 同上 龍太の鳶蛇笏の連山袋掛 同上 足首を上げて背伸びや麦の秋 同上 短夜やリュックサックは壁に立て 同上 真上より夕べのチャイム青嵐 同上 満月に雲ひとつなし夏暖簾 同上 バナナ呑…

青き鳥黒く見え居し若葉風 岡田由季 サルビアや奥に犬居る美容室 同上 早退の春野架空の歌うたひ 倉木はじめ 地に触るる花弁より溶け落椿 篠崎央子 五月闇より枕木の繰られけり沼尾将之

鯉幟

遠雷や神々の国暮れ残る 野木桃花 いきいきと川波流れ初つばめ 松岡隆子 曇る日の花の白さの匂ふかな 同上 惜春の橋を渡るに振り返る 同上 残桜や山湖音なく暮れゆける 同上

柏餅

麗かや小魚跳ぬる潮だまり 鹿又英一 いつまでもかはほりの飛ぶ薄暑かな 島村正 蜷の道覆ひて川藻流れゆく名和未知男

みどりの日

遠い日の雲呼ぶための夏帽子 大牧広 衣をぬぎし闇のあなたにあやめ咲く 桂信子 竹の葉の落ちゆく先も竹の谷 鷲谷七菜子 布織ってをり垂直に汗落ちて 中山和子 行春の一人旅にて淋しかろ 大竹孤愁 残り葉の人のけはひに散りかかる 同上 一山の挿頭と見ゆる桜…

川端康成『眠れる美女』より

小さい虹を見ることから、娘のきれいなひそかなところが目にうかんできて追い払えなかった。それを江口は金沢の川沿いの宿で見た。粉雪の降る夜であった。若い江口はきれいさに息を吞み涙が出るほど打たれたものであった。ひそかなところのきれいさがその娘…

兜飾る

鮒鮓や夜の底深き湖の国 伊藤伊那男 平凡を願ふくらしや胡瓜漬 三沢久子 冷し瓜回して水の流れ去る 大串章 冷し西瓜縞目ゆたかに浮びをり 浅井よし子 茄子漬や雲ゆたかにて噴火湾加藤楸邨

紫木蓮

夏山に向ひ吸ひ寄せられんとす 清崎敏郎 日もすがら木を伐る響梅雨の山 前田普羅

砺波

短夜やからからと鳴る車井戸 村上鬼城 水口をあけて水澄む青田かな 以下同じ 提灯に風の吹き入る青田かな 南風のそよ吹き渡る青田かな 宵闇に五位の鳴き越す青田かな しののめや青田をわたる南風 白百合のしらしら咲いてそり返る 百合さいて草間の道の夜明か…

袋田の滝

万緑の大きな息の中にあり 中村正幸