愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

若山牧水「比叡と熊野」

釣瓶打ちに打つような、初め無く終わりも無いやるせないその声、光から生れ光の中へ、闇から闇へ消えてゆくような声、筒鳥の声である

初夏 人事

畦塗りてあたらしき野が息づける加藤楸邨 畦塗りのしづかな息も塗りこめて池田崇 田搔波きらめき居しが夜となりぬ 米沢吾亦紅 次の田へ瀬をかちわたり田掻馬 原柯城 苗代に一樹の蔭を濃くとどむ阿波野青畝 苗代の二枚つづける緑かな 松本たかし 早乙女の母を…

文芸選評

左手にペットを飼っているやうにスマートウォッチがはしやぐ令和だ 触れられぬ時間を命名した五月令和はいつから令和らしいか 星座だけ同じ好みも考えも違う二人で令和を生きる 平成と令和のいいとこ取りをしてあっという間に平和になれよ

高崎城址

母乗せて押す車椅子風五月 井手澄子 少年の眉に闘志や聖五月永石清湖 鹿の子きて草の匂ひのここにまた 相馬黄枝 白鳥の色をもらひて昼の月大野英二 人には告げじ沈丁の解くまで 富尾和恵 茂吉忌や凛りんと鳴る風の川伊藤厚子 同僚を送る杯春しぐれ 大塚崇史 …

古事記

吾は、悪事も一言、善事も一言、言離(ことさか)の神、一言主の大神ぞ

ふじ牡丹園 湯津上

一山の燃ゆる躑躅となりにけり 咲き満ちて牡丹の影なかりけり 葉ざはりの刃ざはりに似て笹粽 鷹羽狩行 帆柱を風駆けのぼる五月かな 同上 理髪師のひぢかろやかに室の花 下山春陽 着ぶくれの人より貰ふビラ一枚 林弓夫 羽子をつく音上にあり下にあり 星樹人 …

なかがわ水遊園

街灯と月との蝕よ天国にあらねば門はたやすくひらく 高良真実

鯉幟

夜神楽の一番遠き星に礼 赤松佑紀 梟のこうえ星々を近づけず 同上 河豚捌く凪を待たずに刃を入れて 同上 面取られ面打ち返す寒稽古 菊地のはら

デニス・オドリスコル

どこまでもしなやかに、空は 全方位へ実体を伸ばしてゆく いつしか透明な空色を帯びて 継ぎ目も縫い目もない空間に満ちわたる

武具飾る

新緑や鳥啼きのぼるプラタナス

文旦

手袋や会社出づれば一人なる 宮崎淳 冬うらら順路に沿ふは途中まで 佐藤博美

桜野

家出してあなたの部屋で起きる朝マザー・テレサのページをめくる 鳥居

桜湯 空2023年3月号4月号

初凪や女神へ酒の樽を割る 柴田佐知子 寒晴や懸垂の顔歪みだす 同上 薙刀を空へ突き出す飾り山笠 高倉和子 手拭の柄を揃経て夏祭 同上 馬の尾の大きくなびく飾り山笠 同上 いつせいに布巾干さるる祭あと 同上 オートバイ次々止まる卯波かな 中田みなみ 梅干…

雉2023年4月号

上棟の木組の匂ひ春立てり 田島和生 水車廻る水音春の立ちにけり 鈴木厚子

雉2022年11月号より

満州の盥のやうな大西日 西村千鶴子

たかんな2023年4月号

初泣きに皆返事せり大家族 中村静江 陽を入れて脈打つごとく春の水 高田栄子 なまはげの自動ドアより現るる 嶋広一 寒林を抜けたましひを置き去りに 松倉妙子 跳ねるよな足どりの子ら氷踏む 片山静子 母の死をうべなつてゆく夜の秋 吉田千嘉子

ワンタン

柿日和一茶日和といふもよし 村上喜代子 海に立つ富士こそよけれ初日の出 高橋悦男 踊るこころ揺らぐこころに毛糸編む 谷口智行 閂は白樺一枝日雷 大木孝子 乗り継ぎて次がふるさと春隣 伊藤伊那男 秋燕忌一服の茶を熱うせよ 増成栗人 窓際のハンガー冬日吊…

湯気あげて湯葉を引きをり山眠る 西山睦 地の底の燃ゆるを思へ去年今年 桂信子 宇宙も洞なり地球こそ灯 佐怒賀正美 いち日をことば少なに返り花 南うみを 綿虫のやうにしづかに浮かびたし 同上 ほとけからほとけへ若狭しぐれかな 同上 猪の血糊の上を引き摺…

風重く水なほ重く白魚汲む 平田冬か 枯葦は風呼び風は雲を呼ぶ 川合憲子 枯色の海へ届けば青ふかし 浅川芳直 鳥帰る無辺の光追ひながら 佐藤鬼房

朧月夜

星光は闇払へざる氷かな 高柳克弘 馬上の子父を忘れて風薫る 同上 流木にナップザックと春コート 同上 春風や合羽用意のイルカショー 同上

うすいろの影をいくつも夜店の灯 森賀まり

鴨長明 方丈記

がうなはちひさきかひをこのむ。これよく身をしるによりてなり。