愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

2023-10-01から1ヶ月間の記事一覧

天保三大家(櫻井梅室・成田蒼虬・田川鳳朗)を読む

十五句抄。 櫻井梅室 塵ほどに鳶舞上る卯月かな 水底の草も花さく卯月かな 椀の湯気額のゆげや納豆汁 亀の尾のみじかく歳は暮にけり 成田蒼虬 ひと雫するや朝日の福寿草 人ひとり田中にたちてけさの秋 羽をこぼす梢の鳶や小六月 橋筋は夜の賑ふしぐれかな 田…

酒 仕込み

寒柝の音花街に移りけり 蟇目良雨 いくたびも鮪を跨ぎ御慶かな 同上 将門の日照雨ぱらつく祭かな 同上 良寛の書の余白なる涼しさよ 同上 夕暮れの影をゆたかに芒の穂 同上 やはらかな十一月のものの影 同上 おんどりがめんどり庇ふ秋桜 同上 桂郎忌割箸を割…

釜川

俳句はいきいきと生きる主体のあらわれである 中戸川朝人 末期の眼に対抗できるのは、一會の覚悟だと思っている 絨毯を織る花野より風入れて 同上 サルビアの蜜を吸いてはまた泳ぐ 同上 甕伏する屋根にとどきて花瓢 同上

後の月

さくら咲く真昼は人を奪ふべし 佐川広治 盆唄のまづは山河を讃へけり 同上 寒鰤の光る背なやり捌きたる 同上 昼酒や味噌焦がしたる青朴葉同上 浅草へ電車いつぽん心太 杉良介 秋高く双手になにもなかりけり 鈴木しげを 夏帽の鍔より雲の湧く日かな 同上 刳丸…

地獄の季節 アルチュール・ランボー

また見つかった 何が 永遠が 海と溶け合う太陽が

上弦

後の月葡萄に核の曇りかな 夏目成美 十三夜孤りの月の澄みにけり 久保田万太郎 碧落に日の座しづまり猟期来る 飯田蛇笏

秋刀魚

ゆく秋をふくみて水のやはらかき 石橋秀野

有馬朗人集 塔第六集

ずずだまの穂にうすうすととほき雲長谷川素逝 荒削りとも言える力動的な美が自然の大景であるのに対し、人事句の完成美。前者はピカソ、男時。後者はクリムト、女時。 世紀末は女時、世紀初頭は男時になるのではないか。 野を焼く火百済の山を低くせり 越南 …

染谷秀雄『息災』(本阿弥書店、2023年)を読む

『息災』は染谷秀雄の第三句集。俳人協会理事・事務局長。「秀」主宰。十五句抄。 一滴を溜めて間遠の添水かな 翔けあがるときの雫や鳥帰る 新涼やものみな高く吊したる 一方のその手冷たし師は病みぬ 渡し場の旗の高さよ更衣 ゆるやかに廻りて戻る釣忍 葭叢…

小野あらた『毫』(ふらんす堂、2017年)を読む

『毫』は小野あらたの第一句集。「群青」所属「玉藻」編集長。序 佐藤郁良、跋櫂未知子、帯星野高士、装丁中原道夫。十五句抄。 掌に泉の雲の収まらず 上流に雲の淀める韮の花 山麓は湖に映らず夏燕 麦蒔や一歩一歩を柔らかく 動き出すまで掌のがうなかな プ…

善光寺

一足の石の高きに登りけり 高濱虚子 汗拭ひつつ小上りに声掛くる 栗山よし子 大ねぶた右手に月を引き連れて 伊藤ふみ 村人の影をつなげて踊の輪平田はつみ 陸奥の闇へねぷたの火の太鼓鈴木幾久 終電に走り込みたる祭上河原 大場ひろみ 鰡飛んでとんで定まる…

林檎狩

落る日や北に雨もつ暮の秋 炭太祇 二三人くらがりに飲む新酒かな 村上鬼城

山葵田

月山の胎内に入る茸採り 伊藤伊那男 母といふ澪標あり秋の空 德田千鶴子 笛吹川笛吹く風に桃熟れぬ 岡田貞峰 波裏を見せて秋濤裏返る 橋本榮治 も一人の吾に呟くや秋蛍 平子公一 火の国の水滔々と小鳥来る 工藤義夫 今生の今日が終りぬ霧の八ヶ岳西川織子

湖畔

胸にあるさざなみもまた水の秋 德田千鶴子 老鶯と師へ告げたれば師も仰ぐ 野中亮介 朧よりぬけきし猫の白さかも 白岩三郎 手紙にも君の早口年詰る同上 雫して卒業証書漉きあがる同上 まぼろしの戦艦ゆけり桜貝 同上 秋来ぬとサファイヤ色の小鯵買ふ 杉田久女

まるめろ

蓬生や日暮れておろす凧の音 桜井梅室

松本 諏訪

夕せまるこころに椋鳥の群れ渡る 原石鼎 草の実や影より淡くはしる水石橋秀野 佇めば身にしむ水のひかりかな 久保田万太郎

月見

蟻の列蟻の骸を避けにけり 雷の一筋沖へ分れけり 小野あらた