愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

2023-09-01から1ヶ月間の記事一覧

名月

十六夜や囁く人のうしろより 加賀千代女 栗飯のまつたき栗にめぐりあふ 日野草城 街の灯の一列に霧うごくなり臼田亞浪 別れ来て栗焼く顔をほてらする 西東三鬼

無月

牛の糶雪蹴散らして始まれり 大高松竹 銀杏にちりぢりの空暮れにけり 芝不器男

待宵

炎天を大きな耳の過ぎゆけり タイムカード押し雪掻に加はりぬ 登山ザック老犬のごと足元に 髪かけて耳みづみづし聖五月 椎名果歩

杉良介

形代のふたり離れて流れ出す 口笛に高音の出て愛鳥日 みちのくの桜に籠る天守かな 大根の肩そびやかす奴を抜く そこでなと間を置き榾を裏返す 和讃 花びらをひろげつかれしおとろへに牡丹おもたく萼をはなるる 木下利玄 我声の風になりけり茸狩正岡子規 茸狩…

雲隠れ

金色の尾を見られつつ穴惑 竹下しづの女 みみず鳴くや肺と覚ゆる痛みどこ 富田木歩 紫蘇の実を鋏の鈴の鳴りて摘む 高浜虚子 紫蘇の実も夜明の山も濃紫木下夕爾

上弦から弓張へ

秋風や水に落ちたる空のいろ久保田万太郎 コスモスの風ある日かな咲き殖ゆる杉田久女 いちまいの刈田となりてただ日なた長谷川素逝 啄木鳥や日の円光の梢より 川端茅舎

しなだしん『隼の胸』及び『夜明』抄

『隼の胸』 さくらからさくらへ鳥のうらがへる 紙漉のをんなのかほもながれけり 夜を来る馬の輪郭星涼し うたふとき鯨の鰭のやはらかし 『夜明』 屋根のびてきて屋根の雪落ちにけり 半島も海もさかさに鳥の恋 水よりもみづみづしくて青蛙 没しはじめしうすら…

竜胆

校長の役は校長村芝居 橋本榮治 黒日傘目深に隠れ逢ふごとし ほんだゆき 青春はリュックの匂ひ花カンナ 大谷昌子 あめんぼう水を掴みて流れけり 市村健夫 秋天をまるく切りたる鳶かな 大谷昌子 終戦日厚くて甘き玉子焼 栗山よし子 浜木綿や風に燈台寂びゆけ…

電気椅子に座るがごとし歯科医師のドリルの音に口を開け居て

きらきらと秋の彼岸の椿かな 直江木導 色鳥や霧の晴間の日の匂ひ 大場白水郎

根岸善雄『光響』(角川学芸出版、2011年)を読む

『光響』は根岸善雄の第四句集。「馬酔木」同人。十五句抄。 蒼天のひかり聚めて冬桜 ひつじ雲うさぎ雲草笛欲しや かぎりなく柳絮睡りの中を飛ぶ 梅雨穂草水より淡きゆふべ来る 湿原の天眩しめば鶴鳴けり たまきはる螢火の燃え尽きざるや 碧潭の底まで透くる…

伊香保

蒼穹を鵙ほしいまま曼珠沙華 川端茅舎 日暮るるや空のはてより秋の汐正岡子規 海女深く息づく秋の潮かな 潁原退蔵 刈込みし山美しや小鳥網 松本たかし

小川楓子

かなしみに芯あるゆふべ鶴来るよ 夕涼のくきくきとゆく一輪車 たふれたる樹は水のなか夏至近し 渡り鳥シーツに椅子の影落ちて 小鳥来る夜の番地のありにけり あの白い駅までの息探梅行 泣顔のあたまの重さ天の川 こまやかな雨の色なる千鳥かな

月草や澄みきる空を花の色 大島蓼太

上野一孝

さざなみの向こうに天守つばくらめ さかづきに酒なみなみと櫻かな 面魂とは蟷螂のそれにして 観音に胸のふくらみ閑古鳥 万緑に胸うつくしき弥勒仏 水太く落ち滝として立ち上がる 滝の水落つるとも石走るとも

橋本榮治『麦生』(1995年、ふらんす堂)を読む

『麦生』は橋本榮治の第一句集。「枻」代表。十五句抄。序 林翔 栞 野中亮介 装幀平子公一。 湯をかけて艫綱を解き漁始 寒柝の仕舞の一打われへ打つ 初蝶や児が追ふほどの速さにて まつすぐに降る雪はなく積りをり 双肩に月光重し裘 空いまも無垢の蒼さや仏…

石蔦岳 『岳』及び『虎月』抄

涅槃西風御手洗団子蜜垂らし 天と地の境は浅葱雪の果 陽炎のくるぶしあたりより立てり 晩餐に豚の耳削ぐ五月祭 舎利塔の天に宝珠を抱く夏 胎内のものの眠れる繭を掻く 夏花摘夕日のやうな朝日つれ 初富士や箔一枚を置くごとし 汗滂沱たるおのが身のゆらぎを…

秋澄みたり魚中に浮て底の影 正岡子規 足跡にひそむ魚あり落し水 与謝蕪村 花葛の秋にからまる山路かな竹村方壺

ニーチェ

諸君はハムレットを解するか?人を狂気にするものは疑惑ではなく確かさである

馬酔木第102巻第9号

湖畔道肺の奥まで風涼し 小森泰子 エプロンの紐を蝶々に暑に耐ゆる 藤井明子 一山を一寺の占むる青葉風 松田多朗 海鳴りや白鷺峽の深くまで 久留米脩二 夕虹やゆつくり外すイヤリング 大上充子 半島の先は荒海棕櫚の花 一民江 月は影囲うて声の蟇 平田はつみ…