愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

伊藤強一『枯野』(俳句アトラス、2024年 私家版)を読む

『枯野』は伊藤強一の第一句集。「海光」同人。序・林誠司。十五句抄。

 

永き日や遠く聞こえるかくれんぼ

膨らんだ麒麟の鼻や夏来る

梅雨明けや平均台のバック転

耳そば立てて白シャツの調律師 

十一月クルスに白き日のひかり

指先のあまる手袋咬んで脱ぐ

海鞘の味ゆうべの夫婦喧嘩かな

通夜の灯をうけて柘榴の花のいろ

かけ違ひあまる釦や油照

うたた寝のじいじ起こすな猫じやらし

春日なか鳩そつくりな鳩の影

手足外してマネキンの更衣

雨に濡れしづかに夜の薔薇になる

山盛りの枝豆がでる祝かな

やぶ枯らしのしがみついてる地球かな

生牡蠣をすすりてぐつと空迫る

 

*本著は著者より寄贈を賜りました。記して感謝申し上げます。