愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

夜鷹蕎麦・河豚鍋・葱鮪・鯨鍋・狸汁

灯のもとに霧のたまるや夜泣蕎麦 太田鴻村

夜鷹蕎麦来て足早に刻が過ぐ 古賀まり子

鍋焼の火をとろくして語るかな 尾崎紅葉

鍋焼ときめて暖簾をくぐり入る 西山泊雲

逢はぬ恋おもひ切る夜やふぐと汁 与謝蕪村

てつちりと読ませて灯り居るところ 阿波野青畝

ふぐ鍋や夜眼に見えねど淀流る 森川暁水

河豚汁くつくつ女背がわらふ 加藤楸邨

たれかれの話となりし葱鮪かな 斎藤優二郞

鯨鍋夜の海鳴りに眉をあげぬ 深見涼哉

ひとしやもじ加へし味噌やくぢら鍋 草間時彦

鍋尻にチカチカ燃えて狸汁 富安風生

酔うてゆくわれを知りをり狸汁 星野立子

狸汁あすゆく山を月照らし 下田稔

狸汁食べて眠たうなりにけり 大橋越央子