愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

『航路』小野恵美子(2023年.ふらんす堂)を読む 

『航路』は小野恵美子の第五句集。馬木同人。15句抄。俳人協会幹事。本著は著者よりご恵贈賜りました。記して御礼申し上げます。

 

白南風の帆やふるさととなす他郷

好晴の画布のうちそと落葉降る

邂逅の大き手套につつまれぬ

独り居も佳しや六日の菖蒲風呂

ナイターの沸騰点の中に居る

春祭べつかふ飴に海透けて

浅春の帽を支へて耳二つ

その中に母を顕たせて花吹雪

白玉や世に遅るるといふ寧さ

降誕歌火影が階を昇り来る

冬木の芽海鳴りは人悼むかな

櫂挙げて高き日讃ふ海開き

海道の風を畳めり白日傘

桟橋は彼我逢ふところ南風吹く

海岸に蛇口屹立して晩夏