愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

池田利子『蛍』(2023年、文學の森)を読む

十五句抄

白息を碁石に吹きかけ初手打つ

湯気あげて駿馬ぬたうつ春の泥 

桜散る桜畳を厚くして 

人に添ひ人に媚びざるつばくらめ

街の音消して泰山木の花

水底の拍動のごと泉湧く

大トマト日を溜め込みて熟れにけり

散骨船虹に向つて舵を切る

たましひを擲つごとし土用波

しろがねの泡をまとひて桃浮けり

桃の香の満つる書斎や遺書しるす

客の咳止みて静けさみじろがず

事件簿を燃やすほむらや忘れ雪

介護士に心あづける初湯かな

啓蟄や凸凹さけて車椅子