愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

『沈黙の函』飯田マユミ(2023年、コールサック社)を読む

『沈黙の函』は飯田マユミの第一句集。俳人協会会員。「」同人。十五句抄。

 

影ひとつゆるがぬ真昼威銃

雁や掬へば消ゆる海の色

水滴の張りつくコップ原爆忌

セーターを着てやはらかき妻となる

金髪の弟のいる祭かな

寒紅は深紅生涯子を生さず

寒いのは羽をなくしてしまつたせい

それよりもポインセチアが乾いてる

自転車の籠に花束五月来る

先頭は旗振るやうに捕虫網

陽炎なのか頼朝の影なのか  

踵より降り立つ離島桜まじ

初夏や肩を揺らして弾くピアノ

塗りつぶす下絵八月十五日

石段は闇の入口曼珠沙華