愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

橋本榮治『麦生』(1995年、ふらんす堂)を読む

『麦生』は橋本榮治の第一句集。「枻」代表。十五句抄。序 林翔 栞 野中亮介 装幀平子公一。

 

湯をかけて艫綱を解き漁始

寒柝の仕舞の一打われへ打つ 

初蝶や児が追ふほどの速さにて

まつすぐに降る雪はなく積りをり

双肩に月光重し裘

空いまも無垢の蒼さや仏桑花

翼もて覆ひきれざるものへ雪

冬耕のひとりとなりて生む谺

朝の日に画布の純白小鳥来る

縄跳の縄海光を切り止まず

魚に似て行く長梅雨の新宿区

旅衣手に軽ければ林檎買ふ

黄落やわが影いづこにもあらず

蕪蒸若狭は小橋よりしぐれ

仏桑花愛すとは血を流すこと