愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

石蔦岳 『岳』及び『虎月』抄

涅槃西風御手洗団子蜜垂らし

天と地の境は浅葱雪の果

陽炎のくるぶしあたりより立てり

晩餐に豚の耳削ぐ五月祭

舎利塔の天に宝珠を抱く夏

胎内のものの眠れる繭を掻く

夏花摘夕日のやうな朝日つれ

初富士や箔一枚を置くごとし

汗滂沱たるおのが身のゆらぎをり

木登りの足見えて居る我鬼忌かな

両腕失せし観音冬の虹

髪を梳くうしろに小春日を散らし

滝落ちて冬青空をひきしぼる

小春日や笑ひの渦のなかに母

 

帯ほどく如くに枝垂桜かな

透くといふ色を重ねて返り花

青空を押し上げて居し桜かな

四万六千日ものみな遠くありにけり

こころしづかに秋冷の山の色