愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

有馬朗人集 塔第六集

ずずだまの穂にうすうすととほき雲長谷川素逝

荒削りとも言える力動的な美が自然の大景であるのに対し、人事句の完成美。前者はピカソ、男時。後者はクリムト、女時。

世紀末は女時、世紀初頭は男時になるのではないか。

野を焼く火百済の山を低くせり

越南

 河内(ハノイ)とは佳き名の街の蓬餅

縄跳びをくぐれば春の灯のともる

独楽廻す大勢の子が湧いて来て

敦煌

秋風の吹きて黄河に別れけり

爽やかに曲りて細し絹の道

流星や駱駝の瘤に跨がつて

爽やかに話す二人の如来かな

オアシスの人に懐けり羽抜鳥

瓢箪に陶淵明の詩を刻む

陽関や天馬たらむと馬肥ゆる

洛陽

裸子が走る関羽首塚

 

顔回の鬚は短し爽やかに

 新涼や北魏銀の鈴の音

いづこにも竜居る国の天高し

竜二頭相たはむれて淵に入る

プーケット

鱶の鰭ふんだんに食ふ立夏かな

岩燕その巣の甘き夏立つ日

泳ぎ来て椰子の実を割る真二つ