愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

染谷秀雄『息災』(本阿弥書店、2023年)を読む

『息災』は染谷秀雄の第三句集。俳人協会理事・事務局長。「秀」主宰。十五句抄。

一滴を溜めて間遠の添水かな

翔けあがるときの雫や鳥帰る

新涼やものみな高く吊したる

一方のその手冷たし師は病みぬ

渡し場の旗の高さよ更衣

ゆるやかに廻りて戻る釣忍

葭叢の枯れ始めたる水の色

木村屋のいつもの席に秋の暮

広々と月の高さや十三夜

一片も散らざる翳り夕桜

白南風や水を流して魚市場

括りたるものをあまたに菊日和

街道に干してしろがね春鰯

風すこし出て花影を揺らしけり

一滴の水を落として蜻蛉生る

*本著は著者より寄贈を賜りました。記して御礼申し上げます。