愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

短歌

わが胸に蜘蛛巣喰ふなり垂乳根の母の命の長さ知るより わが胸に蜘蛛巣喰ふなり病む母の命のながさ知らさるるより わが胸のブラックホール病む母の命のながさ知らされしより わが胸に黒拡がりぬ病む母の命のながさ知らされしより わが胸に黒巣喰ふなり病む母…

花苺

行く末や苺の花を見るほどに母逝く頃を思ひ出すらむ 垂乳根の母は小さき星のごと苺の花のごとありしかな 月明や苺の花の咲くほどに母逝く頃を思ひ出すらむ 花苺見るたび母を思ひ出す 月明や苺の花を見るほどに母逝く頃を思ひ出すらむ

村上蛃魚こと村上成之

砂原も焼きて只照る日の影に松葉牡丹は諸向き咲けり

永遠のごとき時間や月明に子は妻の乳呑みつつ眠る 月明に時間(とき)は止まりぬ子の妻の乳吸ひながら落ちゆく眠り

近藤芳美

深く立つ杭を灯はてらしつつおのづから湧く地下の霧あり

けふできてもあすはできぬといふははのゆびのふるへをもろてにつつむ 今日できること明日できぬとふははのふるへるゆびを握りてつつむ 今日できること明日できぬとふ母の震へる指や諸手に包む けふできること明日できぬとふ母の震へる指や春の三日月 けふな…

葛原妙子

なにか長きひと世を意識すとなりびとがテムポの遅きオルガンを弾く

わが而立清く正しく美しく魂高く生くるべきなり

魂の穢るる如し他人(ひと)がため首相がために嘘をつけとは

火のごとく暖かく火のごとく激しき君なりき白夜の逢瀬

塚本邦雄

馬を洗はば馬のたましひ冴ゆるまで人恋はば人あゆむるこころ