写真
竃火のどろどろ燃えて初御空 星々をよぶかに猫の恋はげし 原石鼎
日向より日向に飛べり冬雀 今瀬一博 言ふべきを言ふが身上走り蕎麦 小野恵美子 うす墨の朱の一点や屏風鶴 平子公一 鯊を釣る桟橋子らの足垂れて 小田司 缶ビール手に鯊釣の移り来る 同上
年をとる それは青春を 歳月のなかで組織することだ ポール・エリュアール
自分の愛する誰かに悲しみを打ち明けることができる時には その悲しみはほとんどなくなる。ボナール『友情論』
「相聞(その三)」芥川龍之介 また立ちかへる水無月の 歎きを誰にかたるべき。 沙羅のみづ枝に花さけば、 かなしき人の目ぞ見ゆる。
青葉嵌めて晴れたる空やもみ干せり ポプラ空を刷きたる後の深さかな 重田徳 この道を泣きつつ我の行きしこと 我がわすれなばたれか知るらむ 田中克己 ちらと燃えて燃えのいのちの堪へがたく夜空をぬひて流るるものか 大岡信
朝影にわが身はなりぬ玉かぎるほのかに見えて去にし子ゆゑに 柿本人麻呂(万葉集) 愁ひつつ去にし子ゆゑに藤のはな揺る光さへ悲しきものを 愁ひつつ去にし子ゆゑに遠山にもゆる火ほどの我がこころかな この心葬り果てんと秀の光る錐を畳に刺しにけるかも 斎…
銀をたくさん持っている者は仕合せだろう。麦をたくさん持っている者は嬉しいだろう。 だが、何も持っていない者は眠れるだろう。
葦の地方 小野十三郎 遠方に 波の音がする。 末枯れはじめた大葦原の上に 高圧線の弧が大きくたるんでゐる。 地平には 重油タンク。 寒い透きとほる晩秋の陽の中を ユーフアウシャのやうなとうすみ蜻蛉が風に流され 硫安や 曹達(ソーダ)や 電気や 鋼鉄の原で…
鎮魂歌 西垣脩それらはまだ青みを深くのこした銀杏の葉折重なり 死の静謐にひしめきあいつつつめたい長い甃のほとりに吹きたまっているのであった親しい友たち 君らは沈黙の堆積となって紺青の海のおもてを漂い流れほろびつつ珊瑚礁のかげのない陰に今もなお…
幸福になるなんて、ごく簡単なことよ。成り行きに委ねればそれでいいの。ジャン・アヌイ
わたしは火と戯れているのに、火のほうでは燃えてくれようともしない ジャン・アヌイ
柳宗悦 急ゲド 水ハ 流レジ 月ハ 古シ 泉ハ 新シ 水ハ 松 根強シ 枝聳ユ竹 幹直シ 陰清シ 梅 香リミツ 雪フルモ
藪枯らしの蔓引きをれば秋日落つ 矢部敏江 陰陽図月とも胎の形とも 大井正志 俳の字でつながつてゐる良夜かな 北大路翼 空海の朝餉千年秋気澄む 後藤好文 吾亦紅ときどき良き人とは思ふ 佐藤まりむら 勘弁してやれと紫蘇の実しごきつつ 永島のりお どの夏掛…
秋澄むや遺影の中の顕微鏡 今井聖 花葛の真下を攻むるルアーかな 同上
孤独と連帯性とはどうつながるのか・・・孤独とは何時も離れたところから、醒めた目で自分を見つめる魂であり、そのためには自分を突き放し、自分がまとっている衣装や粉飾をはぎ取って丸裸にもする。それは逆に、何を見、何を意識してもその丸裸の自分にた…
勇魚取り海や死にする山や死にする死ぬれこそ海は潮干て山は枯れすれ 万葉集 巻十六・三八五二
ベルグソン『笑の哲学』 人が自己を孤立していると感じたら、その人は滑稽を味わわないであろう。笑は反響を必要とするもののようである。 われらの笑は常に団体の笑である。 どんなに淡白であっても、笑は常に或る黙契を潜めている。それは、現実或いは仮想…
風景水のなかに火が燃え夕靄のしめりのなかに火が燃え枯木のなかに火が燃え歩いてゆく星が一つ
『批評』 巻頭言 西村孝次 われわれの求め願ふところは宣言ではない、生成である。肯定ではない、懐疑である。狂信ではない、情熱である。詮索ではない、批評である。
サントブーヴ『我が毒』 「21 批評について」 パリでは、真の批評はしゃべりながら出来上がる
ふるさとは 風に吹かるる わらべ唄 今朝の秋 ふるさとに似たる 風ぞ吹く
懽の歌 春の野のうららの妹よ 相見しはいとど遥けし その月日心に堪えて 今日しもぞ直に逢ひつる 今日しもぞ清に逢ひつる 妹が頬、妹が口もと 薄らひも籠れる眉と 山本健吉
静心柿の一葉の落ちにけり 山本健吉
順徳院「八雲御抄」 おほよどの浦にも今は松もなく、住吉の松にも浪かけず。されどもなほいひふるしたるさぢをよむべし。 かくは思へども、今は又珍しき事どもいできて、昔のあとにかはり、一ふしにてもこのついでにいひつべからむには、やうにしたがひて必…
詩人は常に、自己をより価値あるものに服従させなければならない。芸術の発達は不断の自己犠牲であり、不断の自己の消滅である。エリオット
頂上や枯れ苅萱は雲を切る 森俊人 小春日や音の聞こゆる砂時計 田丸勝 絵葉書の切手のゆがむ秋暑かな 鳥居三枝 籐椅子の亡夫の窪みの浅からず 桝本豊子 千年の杉ある宮の茂りかな 福田記子
ドーナツの穴覗きあひ夏休 城台洋子 秋日照る磨きぬかれし甲板に 緑川啓子 白樺に朝空透きて九月来ぬ 布施政子 法師蝉一途といふは心打つ 馬屋原純子 風紋にわが影を曳く晩夏光 川内谷育代 はらからの世辞や苦言や古団扇 斉藤玲子
酔ふほどに余呉のしづけさ紅葉鮒 大谷弘至 むさし野は見あぐる槻や七五三 水原秋櫻子胸の火を掻き熾したり曼珠沙華 德田千鶴子
生きてあることの嬉しき新酒かな 吉井勇