愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

湯気あげて湯葉を引きをり山眠る 西山睦

地の底の燃ゆるを思へ去年今年 桂信子

宇宙も洞なり地球こそ灯 佐怒賀正美

いち日をことば少なに返り花 南うみを

綿虫のやうにしづかに浮かびたし 同上

ほとけからほとけへ若狭しぐれかな 同上

猪の血糊の上を引き摺らる 中西夕紀

寒鯉の日を曳き伸ばしゆきにけり 同上

仰ぎ見ていつしか頼み大冬木 同上

この一輪剪らねば侘助とならず 花谷清

風曳いて鷹は鷹師の手へ戻る しなだしん

流れゆく雪見の舟の屋根の雪 同上

耳元を退きゆく雨と猫の恋 滝澤和治