愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

小野あらた『毫』(ふらんす堂、2017年)を読む

『毫』は小野あらたの第一句集。「群青」所属「玉藻」編集長。序 佐藤郁良、跋櫂未知子、帯星野高士、装丁中原道夫。十五句抄。

掌に泉の雲の収まらず

上流に雲の淀める韮の花

山麓は湖に映らず夏燕

麦蒔や一歩一歩を柔らかく

動き出すまで掌のがうなかな

プールより仰ぐ校舎の高さかな

稲妻や図書館に本古びゆく

冬木立山の裏側より汽笛

雪解の光る脚立を昇りけり

春風やパンの匂ひの南口

曇りたる眼鏡嬉しき夜食かな

捲りたる袖戻りゆく磯遊び

山脈の間に霧の引きゆけり

剪定の木を一回りして終へる

沖遠く影の動かぬ若布刈舟

頂へ手摺の続く涼しさよ