愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

天保三大家(櫻井梅室・成田蒼虬・田川鳳朗)を読む

十五句抄。

櫻井梅室

塵ほどに鳶舞上る卯月かな

水底の草も花さく卯月かな

椀の湯気額のゆげや納豆汁

亀の尾のみじかく歳は暮にけり

成田蒼虬

ひと雫するや朝日の福寿草

人ひとり田中にたちてけさの秋

羽をこぼす梢の鳶や小六月

橋筋は夜の賑ふしぐれかな

田川鳳朗

跡もどりして宿かるや麦の秋

深山木の底に水澄む五月かな 

薄月やすれあふ人に風薫る

踊子や顔月になり闇になり

はつ冬の山々同じ高さかな

剣うつ槌のひびきや軒の霜

行水のゆくにまかせて冬至かな