愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

曽根薫風『喜寿』(ふらんす堂、2023年)を読む

喜寿』は曽根薫風の第一句集。「馬木」同人。俳人協会幹事・同岡山県支部顧問。序 德田千鶴子。十五句抄。

定まりて子にひき渡す凧の糸

母匂ふ陶枕かたく冷たくも

若水の上に日の差す岩の上

初電話胎児が腹を蹴るといふ

節分の雪や板書の手を止めて

画用紙に砂鉄のをどる夏休

名を呼ばれ声を限りに卒園す

萩の雨棺に父の傘をかけ

花束を抱き船を待つ卒業子

諸人と手話の聖書を斉唱す

不揃ひの巣箱に太くクラスの名

薙刀を背に夏袴登校す

傾くも身じろぎもせぬ鉾の稚児

名のみ知る姉の小さき墓洗ふ

川舟の棹の触れたるこぼれ萩

*本著は著者より寄贈を賜りました。記して感謝申し上げます。