愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

鈴木総史『氷湖いま』(ふらんす堂、2024年)を読む

『氷湖いま』は鈴木総史の第一句集。「群青」・「雪華」同人。序 佐藤郁良、跋 櫂未知子。帯 橋本喜夫。十五句抄。

氷湖いま雪のさざなみ立ちにけり

修司忌の傘をひらかぬほどの雨

街の灯のゆらいで初雪と気づく

粽解く十指を湯気にかがやかせ

海沿ひの屋根のあかるし女郎花

ハンガーに人のぬけがら貝割菜

会ふための夜露の自転車をまたぐ

みづうみに輪郭のある初氷

さやけくて母を起こしにゆくところ

さざなみは船に届かずカーディガン

沸き立つてこその鍋焼饂飩かな

ひとこゑに夜の満ちてくる酉の市

灯を点けて塔の全貌夜鳴蕎麦

あかときの湖は墨色紙衾

メロン食ふたちまち湖を作りつつ

*本著は著者より寄贈を賜りました。記して感謝申し上げます。