『耳澄ます』は甲斐由起子の第三句集。「天為」同人、俳人協会会員。十五句抄。
春耕の人をはなれず群雀
夜雨いつも穂高を濡らすそぞろ寒
感冒のはじめ甘美なる戦慄
艫綱に貝みつしりと白露かな
八ヶ岳月光に虹あらはるる
凍蝶の花びらになりゆかむとす
夜神楽の火のあかあかと尾根照らす
首振つて翅を呑み込む守宮かな
冬の蠅おのが影より薄くあり
春立つや呼べば目尻のうごきたる
あたたかや大往生の口を開け
色鳥の散らせる羽根を栞とす
死者のほか恃むものなし寒昴
青葉木菟たましひの耳澄ますらむ
山眠る散りしばかりの花匂ひ