愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

2024-11-01から1ヶ月間の記事一覧

葦の地方 小野十三郎 遠方に 波の音がする。 末枯れはじめた大葦原の上に 高圧線の弧が大きくたるんでゐる。 地平には 重油タンク。 寒い透きとほる晩秋の陽の中を ユーフアウシャのやうなとうすみ蜻蛉が風に流され 硫安や 曹達(ソーダ)や 電気や 鋼鉄の原で…

天結

鎮魂歌 西垣脩それらはまだ青みを深くのこした銀杏の葉折重なり 死の静謐にひしめきあいつつつめたい長い甃のほとりに吹きたまっているのであった親しい友たち 君らは沈黙の堆積となって紺青の海のおもてを漂い流れほろびつつ珊瑚礁のかげのない陰に今もなお…

横山展望台

幸福になるなんて、ごく簡単なことよ。成り行きに委ねればそれでいいの。ジャン・アヌイ

わたしは火と戯れているのに、火のほうでは燃えてくれようともしない ジャン・アヌイ

松阪 伊勢

柳宗悦 急ゲド 水ハ 流レジ 月ハ 古シ 泉ハ 新シ 水ハ 松 根強シ 枝聳ユ竹 幹直シ 陰清シ 梅 香リミツ 雪フルモ

伊良湖崎

藪枯らしの蔓引きをれば秋日落つ 矢部敏江 陰陽図月とも胎の形とも 大井正志 俳の字でつながつてゐる良夜かな 北大路翼 空海の朝餉千年秋気澄む 後藤好文 吾亦紅ときどき良き人とは思ふ 佐藤まりむら 勘弁してやれと紫蘇の実しごきつつ 永島のりお どの夏掛…

難問は分解せよ デカルト『方法序説』

皇帝ダリア

秋澄むや遺影の中の顕微鏡 今井聖 花葛の真下を攻むるルアーかな 同上

孤独と連帯性とはどうつながるのか・・・孤独とは何時も離れたところから、醒めた目で自分を見つめる魂であり、そのためには自分を突き放し、自分がまとっている衣装や粉飾をはぎ取って丸裸にもする。それは逆に、何を見、何を意識してもその丸裸の自分にた…

七月の草はらに真っ白の猫が来て こっちを向いて座った 「これから始まる良い事も悪い事も みんな受け取るように 贈りものですから」と猫は言った 山崎るり子 晩年の空あをあをといかのぼり 楠戸まさる おほがねの一打すなはち春動く 同上 ネフスキー通りを…

小川軽舟 『無辺』抄

下京をさらに下がりし日永かな 小川軽舟 朧より生まれ霞にかへりけり 同上 父帰れば畳に泳ぎ見する子よ 同上 終りなく雪こみあげる夜空かな 同上 麗かや眠るも死ぬも眼鏡取る 同上 雪になりさうと二階の妻降り来 同上 火の影を踏む白足袋や薪能 同上

侘助

勇魚取り海や死にする山や死にする死ぬれこそ海は潮干て山は枯れすれ 万葉集 巻十六・三八五二

『桃李』与謝蕪村 序文

ただ日々におのれが胸懐をうつし出て、けふはけふのはいかいにして、翌は又あすの俳諧也

ヴァレリー

羽のごとくにはあらで 軽くあれかし 鳥のごと

新蕎麦

ベルグソン『笑の哲学』 人が自己を孤立していると感じたら、その人は滑稽を味わわないであろう。笑は反響を必要とするもののようである。 われらの笑は常に団体の笑である。 どんなに淡白であっても、笑は常に或る黙契を潜めている。それは、現実或いは仮想…

惣誉酒造

しみじみと美味しい酒が良い酒だ

鈴木晴香

自転車の後ろに乗ってこの街の右側だけを知っていた夏 年輪の外側に立つわたしたち未来の蜘蛛や蜻蛉にであう 落ちないでいる岩と落ちてしまう岩どちらも君のようだと思う 火照る顔ふたつを窓に映しつつケーブルカーで夜へと下りる 木下龍也

箒木紅葉

微笑は笑の完成だ。笑の裡には、直ぐ鎮まるとはいへ、常に不安があるからだ。微笑の裡では一切が寛ぎ、何の不安の抵抗もないからだ。 アラン『精神と情熱に関する八十一章』

原民喜

風景水のなかに火が燃え夕靄のしめりのなかに火が燃え枯木のなかに火が燃え歩いてゆく星が一つ

猪口布子『水入りの小瓶』(朔出版、2023年)を読む

『水入りの小瓶』は猪口布子の第一句集。「香雨」同人。帯・片山由美子。俳人協会会員。十五句抄。 風鈴や窓開けしまま眠る村 黄落や背に頬つけて二人乗り 風光る手話の手と手の踊りづめ 苗木売ひとつ売れては並べ替へ 月山も蔵王も真白冬日和 ガラス窓叩き…