愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

加藤又三郎『森』(邑書林、2021年)を読む

『森』は加藤又三郎の第一句集。「鷹」同人。序・小川軽舟俳人協会会員。十五句抄。

虫の音はかえすことばの浮かぶまで

浮寝鳥夕星滲み出るごとく

後輩の女おでんに泣きじゃくる

年礼や浄瑠璃坂の上の月

立春のピクルスに刺す星条旗

春月や斧の重さの赤ん坊

掌を声に翳せる桜かな

サマードレス口約束を忘れけり

八月の森に錨を下ろしけり

少年が母にはためく花野かな

青空の匂いの森をぬけて冬

雪ふるや劇団員に大鏡

種を蒔く硝子のビルの管理人

夕焼を列車傾きだれも魚

押し入れにラックぴったり後の月

 

*本著は著者よりご恵贈賜りました。記して御礼申し上げます。