愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

朝顔と鹿

村野四郎『亡羊記』(1959年)より

 鹿
鹿は 森のはずれの
夕日の中に じっと立っていた
彼は知っていた
小さい額が狙われているのを
けれども 彼に
どうすることが出来ただろう
彼は すんなり立って
村の方を見ていた
生きる時間が黄金のように光る
彼の棲家である
大きい森の夜を背景にして


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