愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

馬酔木第101巻第1号

紙風船ついて何かを待つ心 若見洋子

桜蕊踏む革靴も古りにけり 関孝一

貼りつきし笑顔ハンカチ以て拭ふ 同上

来し方の見ゆるや花の中の雲 金田志津枝

日月を数へて返り花となる 同上

花冷といへるは花の色にあり 同上

弟よ母乗せて来よ瓜の馬 同上

白鳥の眠るとはかく真白なる 同上

落鮎に虹のひといろありにけり 櫨木優子

戻りたる足跡はなし秋の浜 同上

春の雪この世のものに触るるまで 同上

ゆく夏や林に入れば風が見え 同上

ともし火は人に寄り添ひ去年今年 同上

横町のしぐれ飴屋の太格子 二俣和歌子

己よりおのれ遁れて花野径 米山のり子

鬼胡桃こころの芯は揺るがざる 伊藤邦江

曼珠沙華さかねば悲し咲けばなほ 岡本美恵子

志功館出るや天女のごとき雪 永石清湖

二度咲きの木犀に刻戻らざる 福澤順子