愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

広渡敬雄『間取図』(2016年、角川書店)を読む

『間取図』は広渡敬雄の第三句集。俳人協会幹事。「沖」同人。十五句抄。

蛇ゆきし草ゆつくりと立ち上がり

裏返りつつ沢蟹の遡る

滴りのわが脈拍となりゆけり

凍蝶とつぶやく胸にしまふかに

凍滝の中も吹雪いてゐたりけり

腹擦つて猫の欠伸や夏座敷

甚平の飛車を大きく振りにけり

地球儀の南極白しクリスマス

ぶなの生む一滴の水春の鹿

甘夏の明るさ水に近ければ

中秋や遠き雲抜く近き雲

石鹸に文字の手触り十二月

心臓は拳のかたち春を待つ

手の切れるやうな青空久女の忌

丸描いて即ち土俵草青む

本著は著者よりご寄贈賜りました。記して感謝申し上げます。