愛ね、暗いね。

あるいは小さな夜の曲

馬酔木第102巻第9号

湖畔道肺の奥まで風涼し 小森泰子 

エプロンの紐を蝶々に暑に耐ゆる 藤井明子

一山を一寺の占むる青葉風 松田多朗

海鳴りや白鷺峽の深くまで 久留米脩二

夕虹やゆつくり外すイヤリング 大上充子

半島の先は荒海棕櫚の花 一民江

月は影囲うて声の蟇 平田はつみ

木椅子まだ濡れて始まる夏芝居 石本百合子

眼前のものみな碧し夏祓 市村健夫

向日葵の迷路のはたて海真青 曽根薫風

鞆の津の沖より晴るる群青忌 馬屋原純子

長考の夫に首振る扇風機 佐久間尚子

滝壺へ落ちゆく雪解水透きて 緑川啓子

沖縄忌鮮血いろの仏桑花 西村梛子

酒蔵は嶺をそびらに山法師 長谷川耿人

落日や白から銀へ花すすき 松井美恵子

吸うて吐く闇美しや青葉木菟 蟇目良雨

暮れのこる海の余熱や沖縄忌 岩波千代美

成行きにまかせる事も氷水 有宗眞弓